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8話 婚約者へ出世しました?

今日もソフィーとライアンの二人は、一緒に休憩をとっている。

ソフィーは二人でお茶をすることにも慣れ、すっかり定位置となったライアンの向かいの席に座っていた。

同じ空間に居る時間は増えたものの、作業中はさすがに真正面から顔を拝めるチャンスは少なく、堂々とライアンを観察出来るティータイムは貴重なひとときだった。


「それで? 全然商談に持ち込めないのですか?」


最近のライアンは、仕事の話もたまに聞かせてくれるようになっていた。

今は、隣国スナイデラのとある貴族に取引を持ちかけているが、『貴殿は真面目すぎる』と言われ、いつも有耶無耶にされてしまうという話を聞いたところだ。


「そうだ。真面目すぎると言われてもな。正直自分では何が悪いのかわからない」


ライアンは困ったように微笑んでいる。

近頃ソフィーの前ではよく笑顔を見せるようになったライアン。

目にするたびに、ソフィーは胸が高鳴らずにはいられなかった。


ライアン様が冷徹だなんて、噂は当てにならないものね。

笑顔を見せてくれるようになったっていうことは、少しは私の存在や裁縫の腕を認めて、心を開いてくれたってことかしら?

もっとライアン様のお仕事の役に立てたら、私をお嫁さんにしてくれるかも。


妻に選ばれるには、ビジネスパートナーとして評価されることが肝要だと考えているソフィーは、ライアンに少しでも出来る女だと思われたかった。


「仕立てている最中ですが、もしかしてこの服が使えるかもしれません」


ライアンの力になれるかもしれないと、一生懸命言い募ってみる。


「この服なら今までのライアン様の印象を吹き飛ばし、新しいライアン様を感じていただけるに違いありません。少なくとも、会話のきっかけにはなると思います!」


ああっ、もし私がその場に居られたら、その方が興味をそそられるようなアレンジを施したり、フォロー出来ることもあるかもしれないのに。

悔しいわ。

お仕事、うまくいくといいけれど。


「くくっ、また全部口から出ているぞ? 君がそんなに自信があるなら一緒に来るか?」


またやっちゃった。

それより、今ライアン様、声を出して笑わなかった?

珍しい!

しかも、一緒に来るかって聞こえたような……。


一気にいろんな感情が沸き起こり、あわあわと忙しいソフィーを面白そうにライアンが見つめている。

ようやく尋ねられた意味がわかると、ソフィーは頬を紅潮させながら話に飛び付いた。


「いいのですか? ぜひ私もご一緒したいです!! お相手は近々この国にいらっしゃるご予定なのですか?」

「いや、私が行くんだ」


なるほど、ライアン様が出向くのですか。

スナイデラに。

私を連れて。

へぇー。

ほぉー。

…………ん?


「ええっ!! 私も行くんですか!? 国境越えて!?」

「そりゃあ、国境は越えるだろう。隣とはいえ、他国だからな。まあ、嫌なら別に無理には」

「行きます。行かせて下さい! 絶対付いていきますからっ!!」


ライアンの言葉を遮り必死に主張するソフィーを、イタズラが成功したと言わんばかりにライアンが目を細めて見ていた。

心なしか口角も少し上がっている気がする。


あれ?

これって、からかわれたんじゃない?

ライアン様、私が絶対行くって言うとわかっててわざと挑発したわね?

意地が悪いわ。


ムッと口を尖らせたソフィーだったが、冷静になって考えてみる。


「でもいいのですか? お仕事の場に私が付いていっても。変な噂が立ちません?」

「大丈夫だろう。というより、もう遅いというべきか。……知っているか? 最近巷では、私達は婚約したと思われているらしい」


へぇー、私達が婚約。

それはおめでたい話ね。


ソフィーは紅茶に口を付けようとしたところで、ようやく内容を理解した。

今日は衝撃的な話が多いからか、ソフィーはすっかり後手に回ってしまい、振り回されっぱなしだ。


実は、それもこれも全て、ライアンの思惑のせいだった。

彼はソフィーの素直な反応が癖になっており、新しい表情見たさについからかってしまうのである。

まさかの子供じみた愛情表現に、メイドのジェーンは苦笑するしかなかった。


もちろんそんなことは知らないソフィー。

しかし、知らず知らずのうちに満点の反応を返していた。


「へっ? 私達が婚約!? なんでそんなことに?」

「プハッ」


令嬢らしからぬ素っ頓狂な声に、とうとうライアンが吹き出している。

ライアンが実は笑い上戸だとバレるのも時間の問題かもしれない。


「くくくっ、ああ失礼。いや、君がこれだけこの屋敷に入り浸っていればな。まあ、父が喜んで吹聴しているのがいけないとは思うが」


伯爵……。

変な噂が立った時の対策として、私に使用人さん達の服を依頼したのではなかったっけ?

自ら私のことを話しちゃったら意味がないじゃないの。


しかし、ライアンと結婚したいソフィーにとって、この噂が追い風であるのは確かだった。

ライアンは迷惑に思っているだろうが、世間から婚約者だと勘違いされているなら好都合。

ここは噂に乗っかるのみである。


「では、喜んでお供させていただきます」

「そうか、頼んだ。ああ、そうだ。君の服も依頼しておこう」


私の服?

服なら、家に帰ればそれなりには持っているけれど。


首を傾げるソフィーだったが。


「せっかく二人並ぶなら、服に統一性があったほうがいいだろう? 君をデザイナーとして紹介するから、商談が成功するような『真面目じゃない』服を頼む」

「わかりました。おまかせください!」


ライアンに頼りにされたことが嬉しく、ソフィーは元気良く胸を叩いてみせた。


仕事第一のライアンが、大切な商談にソフィーを同席させるーー。

彼女がライアンにとって特別な相手になりつつあることは誰の目から見ても明白なのに、肝心のソフィーだけがそのことに気付いていないのだった。



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