7話 見つめていたい人。
ソフィーは充実した日々を送っていた。
大好きな服作りを、道具が揃った完璧で快適な空間で、思う存分堪能出来るのだ。
しかも協力的で親切な人に囲まれ、これ以上の幸せを感じずにはいられない。
やることがたくさんあって大変だけど、とっても楽しいわ。
それに何より、最近はライアン様の仕事が落ち着いているのか、顔を見られる機会が多いのだもの!
ああ、今日も最高に格好いい……。
そうなのだ。
ライアンは採寸の際にソフィーと顔を合わせて以降、目に見えて屋敷で過ごす時間が増えた。
それはもう、あからさまなほどでーー。
最初は廊下で偶然すれ違ったり、ソフィーの帰る時間に玄関で鉢合わせたりしていただけだったのが、日を追うごとに進捗を確認に訪れたり、作業中の様子をただぼんやりと眺めていたり。
とうとう作業部屋でソフィーとお茶の時間を共に過ごすようにまでなったのだ。
当然ながら、ソフィーの目にライアンが映る時間も断然長くなったわけで……。
ああ、何度見てもライアン様は素晴らしいわ。
やっぱりこの顔を見ると、やる気が漲るのよね。
これだけ様子を見に来るってことは、それだけ私の作る服が期待されてるっていうことだと思うし。
あ、さてはライアン様ってば、ようやく服の持つ重要性に気付いてくれたのね?
自分が興味を持たれ始めているなど微塵も考えないソフィーは、ライアンの目的が彼女の作る服であると信じて疑いもしていない。
絶好調のソフィーは、今日も鼻唄混じりにノリノリで手を動かしていた。
今回ソフィーがライアン用に縫製しているのは、仕事用の外出着である。
ライアンに希望を訊いても埒が明かなさそうだったので、ソフィーの独断と好みで仕事中はもちろん、ちょっとしたパーティーでも着られるものに決めた。
遊び心があるお洒落なジャケットは、仕事着としては少々独創的かもしれない。
絶対ライアンには奇抜だと言われそうだが、確実に人目を惹くし、会話に弾みがつくはずだとソフィーは自信を持っていた。
本当は夜会用も、普段の外出着も、部屋着だって作ってみたい。
その為にもこの一着を認めてもらわないと!
ソフィーは溢れ出る創作意欲に嬉しい悲鳴をあげていた。
◆◆◆
生き生きと作業するソフィーとは正反対に、悶々としている人物が居た。
ライアンである。
おかしい……。
なんでこんなに彼女が気になるんだ?
女性は面倒だから、深くは関わらないようにわざと冷たく接してきたというのに。
仕事が生き甲斐だったはずなのに、その大切な仕事を切り上げてまで、私は何故いま屋敷に居るんだ?
自分で自分の行動を疑問に思いながらも、ライアンの目は自然と地味な格好で楽しそうに働くソフィーを追っている。
どうしてかずっと見ていたい気持ちにさせられ、視界に入っていないと落ち着かないほどだ。
気付けばライアンはソフィーに提案していた。
「君の仕事の進み具合が気になるし、君も私が近くにいればすぐ試着もさせられて便利ではないか? えー、つまり……私もこの部屋に仕事を持ち込んでいいだろうか?」
「ええ! 私は嬉しいですし、ぜひ。あ、でも散らかってますよ? 煩いかもしれませんし」
「そんなことは構わない。私のことは気にしなくていい」
澄ました顔でライアンは鷹揚に答えたが、内心はうまくいったことを喜んでいた。
私がいると嬉しいのか、そうか。
なんだか気恥ずかしいが、悪くない。
これで働きぶりも随時確認できるし。
……依頼主として、常に進捗状況をチェックするのは当然のことだよな。
ああ、少しもおかしくなどないぞ。
自分を納得させるようにうんうんと頷いているライアンを、ジェーンが『やれやれ世話が焼ける』といった表情で見ていることなど、少しも気付いていなかった。
こうなることを見越して、ジェーンがあらかじめソフィーに広い部屋を用意し、ライアンの好むソファーセットまで設置していたことも……。
ライアンがソフィーを見つめていると、時々目が合い照れたように笑いかけられる。
自分の意思と裏腹に、ライアンも小さく微笑み返す。
ライアンは自分の気持ちをもて余し始めていた。