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5話 易しい第一関門。

ソフィーは思い切って、後方へ流すように固めてあったライアンの前髪を崩しにかかった。


「何をする!!」


ライアンが焦っているが、ソフィーの手は止まらない。

ぐしゃぐしゃと、まるで子供の頭を乱暴に撫でるみたいにほぐしていく。


前髪を上げて整えているのも似合うのだけど、ライアン様の場合はカッチリし過ぎて相手に圧を与えてしまうのよね。

切れ長の目は素敵だし、私の好みど真ん中だけど、普通の人は近寄りがたく感じてしまいそう。

もうちょっと隙を見せないと、コミュニケーションも上手くいかないと思うの。


「こんな感じかしら?」


適度に前髪をおでこに垂らすと、一気に印象が柔らかくなった。

どこから持ってきたのか、ジェーンがサッとソフィーに手鏡を差し出してくれる。


本当にジェーンさんは気が利くわ!

私もお世話してくれないかしら。


礼を言って受け取ると、ソフィーはライアンにも見えるように鏡を傾けた。


「なんだこれは! こんなだらしのない髪で人前に出られるか!!」


そう来ると思った……。

この方はカッチリキッチリ至上主義っぽいものね。


ライアンが怒りながら前髪を元に戻そうと躍起になっている。


「ああーっ、駄目ですって。せっかくセクシーで似合っているのに。この程度なら普通ですよ。というか、このくらいくだけて見せた方が人が寄ってきますよ?」

「寄ってきて欲しくないからちょうどいいんじゃないか。セクシーさなんて求めていないし、暇な女性の相手をしている時間などないんだ」

「そんなことを言っていると、せっかくのビジネスチャンスを逃しますよ? 女性でも稀に事業を興す方もいらっしゃいますし。とにかく、この格好の方が女性だけでなく男性だって話しかけやすいし、会話も弾んで上手くいくと思います!」


ジロッとライアンがソフィーを睨んだ。


あ、その目はまだ信用していないわね?

睨んでも私的にはカッコいいけれど、普通の女性は怖がるからやめた方がいいと思いますよ?


なかなか噛み合わない二人に痺れを切らしたのか、ジェーンが会話に加わった。


「ライアン様、試しにそのお姿を旦那様と子爵様にご覧いただいては? 反応によっては、これから取り入れて改善していけば良いではないですか」

「父上と子爵に?」


あ、思いっきり嫌そうな顔をしているわね。

確かにノリだけで『いいじゃないか!!』とか言いそうな二人だから、信頼性が低いのはわかるわ。

でも私にとっては都合がいいわ。

よし、ここはお願い大作戦でいきましょう。


「ライアン様、お願いがあるのですが」

「お願い? ……またしても嫌な予感しかしないな。しかもその予感は正しい可能性が非常に高い」


うわっ、嫌な感じ。

顔は良いのにちっちゃい男ねぇ。


「おい。全部口に出ているぞ」

「え……」


マズイとソフィーは慌てて両手で口を押さえたが、もう遅い。

視界の端ではジェーンが体を折って笑っている。

益々しかめ面になったライアンだったがーー


「願いとはなんだ? 話を聞くだけは聞いてやる。私は小さい男ではないからな」


プッ、しっかり根に持ってるわ。

そういうところがよくないと思うんだけど、案外単純で可愛い人なのかも……。


「では、伯爵様とうちの父の反応が良かったら、私にチャンスを下さい。ライアン様の服を一式仕立てさせて欲しいんです。そして、その服が気に入ったなら私と結婚して下さい。私、ライアン様の専属のデザイナーになりたいんです!」


ソフィーは決死の覚悟だったが、ライアンの返事はあっさりしたものだった。


「いいだろう。残念だがあのお二人の意見は参考にならないと思っている。しかし服はもう一着あってもいいと考えていたところだから、もし仕立てることになったとしてもそれはそれで構わない。君なら、私の空いている時間で融通を効かせて仕立ててくれそうだから助かる」


やったわ。

見事チャンスを勝ち取りました!


「では早速、伯爵様に見せに行きましょう」


ソフィーは少し変身したライアンを連れて、ガゼボに戻った。



「おおっ! ライアン、いいじゃないか。見違えたぞ!」

「ライアン殿、さきほどお会いした時と随分変わりましたな。私は今の方が優しい雰囲気が出ていて素敵だと思いますよ」


きたーっ、『いいじゃないか』。

予想通りの『いいじゃないか』をいただきました!


ソフィーは呆気なく第一関門を突破した。


「ライアン様、私との約束を叶えて下さいね?」


ソフィーがどや顔で見上げると、伯爵の反応は息子のライアンにとっても想像通りのものだったらしく、呆れ顔で父親を見ていた。



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