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4話 ソフィーのファッションチェック。

ソフィーの問いかけに、ライアンが答え始めた。


「そうだな、私は主に領地の経営をしているんだが、我が領地は国境に隣接していてね。君はうちの領地のことなど知らないと思うが」


長い足を組んでいる姿は麗しいのに、相変わらず余計な一言が多い。


ふーんだ、どうせ私は何も知りませんよ。

そんな嫌味っぽく言わなくてもいいじゃないの。

だから冷徹って言われて……って、あら?

もしかして今、国境って言わなかった?


「国境? つまり、ローゼン領は貿易が盛んなのですか? 様々なものが隣国から入ってきたりします? だから珍しい種なども?」


興奮が止まらず畳み掛けるソフィーに、驚いたライアンが少しのけ反った。


「あ、ああ、そうだな。貿易も盛んだが、私は外交の仕事もしているから、直接出向くこともーー」

「ええっ! ライアン様自ら他国へ行かれるのですか? わわっ、凄いです。私はずっと国外へ行ってみたくて。珍しい織物があるのです。いつか技法を学びたいと思っているのですけど。ああ、いいなぁ」


うっとりとした顔で羨ましそうにライアンを眺めるソフィーに、毒気を抜かれたのかライアンの眉は下がり、その表情からは冷たさや厳しさが失われつつあった。

どうやらライアンの冷徹な仮面は、徐々に剥がれてきているようだ。


「君と話しているとペースが乱されて仕方ないな。私と結婚すれば連れていくことはもちろん可能だが……」


そこで我に返ったようにコホンと一つ咳をしたライアン。

気を取り直すように足を組みかえると、しっかりとした口調で言い切った。


「とにかく、私は邪魔をされたくない。夜会でパートナーを務める時間があるなら仕事を優先させたい人間なんだ」

「……別にいいのでは? 私はたまに隣国に連れて行っていただけるならそれで満足ですし」

「だから! 何度も言うが、君の利点を増やしてどうする」


そうでした。

ライアン様にとっての利点を考えているのだったわね。

でも話せば話すほど、ライアン様が素晴らし過ぎるのがいけないと思うの。

私にとってこれほど素晴らしい旦那様と環境が他にあるかしら?

いえ、絶対にないわ。


しかしこのままだと結婚してもらえず、ソフィーにとってのパラダイスも夢のまた夢だ。

何とかして少しでもメリットを探し出さなければ。


「ライアン様、例えば外出や夜会などの際は、服装はどうやって決めていらっしゃるのですか?」

「服? そんなの考える時間が面倒だから、パターンを決めて何着かを着回している。興味もないし、おかしくなければいいだろう」


ええっ、そんな適当な。

この方はファッションの影響力や可能性を知らなさ過ぎるのでは?

でも、知らないってことは……。


見つけたわ!

私の活路を!!


「ライアン様、あなたはファッションの重要性を軽んじていらっしゃいます」


ソフィーは強気に攻めることにした。

ライアンは案外話を聞いてくれる上、頭ごなしに否定するだけでもないとわかったからだ。


「特に軽んじているつもりはない。重要だとも思ってはいないが」

「ですから、そこが駄目なのですよ。人は見た目で判断される部分が大きいです。清潔感がある、場に合った服を着用しているというのは、最低ラインを越えているだけなのです。言わば赤点ギリギリ。そこに少し流行や遊び心をプラスすることによって印象が変わり、社交性が加わって、仕事もうまくいくのです!!」


ソフィーは熱っぽく語るが、ライアンの反応はいまいちだ。


「そうか? 大袈裟だろう。人は中身が大事だからな」

「もちろん中身は大切ですが、中身をよく知る為にも、まずはコミュニケーションが必須です。ファッションはコミュニケーションを生むのです」


ピンと来ていないライアンに、どう納得させようかとソフィーが悩んでいると、メイドのジェーンが思わぬ助け船を出してくれた。


「ソフィー様。ちなみにライアン様の今の服装をどのように変えれば、皆様に受け入れられやすくなりますか? 興味があります」


ジェーンさん、ナイスアシスト!


「そうですね。ライアン様はスラッと背が高いので、コートはもう少し丈が欲しいんですけど、今すぐに出来ることだと……」


ソフィーは自分のポケットからアプリコット色のハンカチを取り出すと、ライアンに近付く。

オリーブグリーンの髪にヘーゼルナッツ色の瞳は、上品で理知的な雰囲気でライアンに似合ってはいるが、無難に黒でまとめすぎていては野暮ったく見えてしまう。

こういう時は差し色を入れ、メリハリをつけるべきだとソフィーは考えた。


「失礼しますね」


ライアンの白いチーフを抜き取り、アプリコット色のハンカチを代わりに差し込む。


「明るい色の方が印象が華やかで、話しかけやすいですからね。折り方もあえてカジュアルに。首回りも堅苦しいのでもう少し弛めて……っと。あー、カフスボタンがもう少し派手だったらもっと良かったのに」


急にソフィーに触られたライアンは内心動揺し、ただされるがままになっていた。


「ソフィー様、こちらなんていかがでしょう?」


ジェーンが手品でも見せるような手付きで、自分のポケットから小箱を取り出した。

ソフィーがワクワクしながら近付き、箱の中を覗いてみるとーー。


「綺麗なカフス! どうしてジェーンさんがこれを?」


魔法使いのように望むものを出してみせたジェーンに、ソフィーは驚きを隠せない。

思わず目をパチクリさせてしまった。


「ふふふ。実はソフィー様がいらっしゃると聞いていたので、お二人が会われる前にライアン様にお洒落をしていただこうと持っていたのです。直接お庭に行かれたので、私の計画は失敗してしまいました」


チャーミングな笑顔で謎解きをすると、ジェーンはソフィーの手にカフスを乗せてくれた。


「どうぞお使い下さい」

「ジェーンさん……ありがとうございます」


ソフィーはジェーンの手をぎゅっと握ると、感謝を込めて微笑む。

ジェーンも嬉しそうに笑っていて、二人は初対面なのにお互い気が合うのを感じていた。


ソフィーは一人椅子に取り残されていたライアンのところに戻ると、勝手にカフスを付け替え、にんまりした。


「よしっと。服はこんなものでしょう。あとは……」


座るライアンを少しだけ見下ろしながら、何か考え付いたソフィーは目を細めた。


「なんだ、その顔は。嫌な予感しかしないぞ」


失礼なことを言うライアンを無視したまま、ソフィーはライアンの髪に手をかけた。


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