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 婚約式も無事に終わり、国王様とローズ様達との食事会という食べた物の味が一切分からないイベントをアステルはこなした。


 緊張して何を話したのか覚えていない……

 

 ただ、失礼の無いようにマナーを間違えないように必死に頑張った。


 学んだことをすぐ活かせる、俺ってえらい……


 誰も頑張りを誉めてくれないので、心の中で自分を慰める。


 それからアステルとサフィア様は2人の宮殿に帰ってきた。

 目まぐるしい1日がやっと終わった。




「はぁ。疲れた……」

 就寝の準備をしていつものように大きなフカフカ高級ベッドに倒れ込む。

 剣術の訓練や授業の時の疲れとはまた違う疲労感に包まれている。

 アステルはそのまま目を閉じていた。


「……アステル寝てる? 疲れたんだね。おやすみなさい」

 しばらくすると、そう近くで声がした。

 部屋の灯りが消される。

 瞼の裏に光を感じ無くなり、これでよく寝れそう……とかなんとか半分寝ている頭で考えていた。

 すると、柔らかくて暖かいものがアステルの横側にくっついてきた。


 ……ん?

 …………!!!!


 アステルは一気に目が覚めて飛び起きた。

 勢いよく上半身を起こしたものだから、眠ろうとしていたサフィア様も薄っすら目を開ける。

 フワフワ髪で垂れ目がちな儚い見た目のサフィア様だ。


「サ、サフィア様、抱きついて寝るのやめてくれませんか?……眠れません」

「えー、毎日寝る時はこうしてるのに?」

 サフィア様もモゾモゾ起き上がった。

「!?」

 アステルは疲れ切って毎日先に寝てしまっているので知らなかった。

 おそらく朝になると寝返りなどでサフィア様からのホールドは外れて添い寝状態なだけなんだろう。


「私は抱っこした方がよく眠れるのになー」

 サフィア様が人差し指を口元に持っていき、空を見つめる。


 ……驚きの安眠法!!

 アステルは心の中で叫ぶ。


 それってあれじゃん。

 悪夢を見ないようになったのって、俺を抱き枕にしてたから!?


「あんまりくっ付かれると……その……」

 アステルが顔を真っ赤にして俯く。

「婚約したんだから手をだしてもいいのに」

「いやいや、俺、未成年だし!」

「王族にはあんまり関係ないかなー」

 サフィア様がからかうように首をかしげる。

 昼間とは違うフワっとした髪が揺れる。

「……ごめんね。嫌でも、もう手放してあげられない。ずっと一緒だと誓ってくれた時から、私は永遠にアステルのものだから……」

 サフィア様が上目遣いで魅惑的な笑みを浮かべる。

 重い重い愛の言葉にアステルの背中が震えたけど、胸がキュッと痛む。


 そしてサフィア様の両手でアステルの両頬を包まれ、唇が重なった。


「!!!!」

 アステルが目を白黒させて驚いているうちにサフィア様は素早く背を向けてベッドに潜り込んだ。

「おやすみなさい……くっ付かせてくれないから今日はそれで我慢するね」

 少し拗ねているような声が聞こえた。


 結局、アステルはよく眠れない夜を過ごした。





**===========**


 次の日、アステルはいつも通りのサフィア様に安堵しながら朝食を食べ、騎士の訓練場へ向かう。

 

「よろしくお願いします」

 いつも先に来ているエミールに対峙し、頭を下げた。

 エミールはアステルのことを嫌ってはいるが、キチンと剣術のことは教えてくれる。

「……正式な王族になったようだな。だがオレはお前を認めていない。敬ったりしない」

 エミールが鋭い視線でアステルを見る。

 

「俺もそんな扱いされたくないんでいいです」

 アステルは慌てて首を振った。

「……お前はサフィア様を守る覚悟は出来ているのか?」

「守る?」

 アステルは突然の問いかけに目を丸くして驚いた。

 

 ……守るって……サフィア様は俺より強くてむしろ守られているのに……


 アステルの動揺を読み取ったのか、エミールが眉をひそめた。

「俺に勝ってみろ。そしたらお前を認めてやる」

 エミールがそう言い捨てた。




**===========**


「っと……ハァハァ……いうことっが……あって……」

 アステルは上から見下ろしているシャングに言った。

 久しぶりに鍛錬でへばって地面に仰向けに寝ころがっているアステルを、シャングが前みたいに立ったまま覗き込んでいた。

「あー、だからそんな感じなのね」

 シャングは頷いて納得していた。


 少し離れた人通りの少ない階段に2人は移動した。

 前のように階段に座ってしゃべる。

「王族になったらしいな! アステル様って呼んだ方がいいのか?」

 シャングが揶揄(からか)いながら笑う。

「辞めろよ。シャングにそう呼ばれたら気持ち悪い」

 アステルも笑いながら大袈裟に嫌そうな顔をした。


「エミール隊長はサフィア王女信者だからなぁ」

 シャングが遠くを見ている。

「エミール隊長とウィリアム騎士団長、サフィア王女は年も近いだろう? お互い切磋琢磨して成長したらしいぜ」

「ふーん……」

「よく聞くのが、サフィア王女が14歳の時に隣国との国境付近で小競り合いがあって、第一騎士団が派遣されたんだって。その時まだ3人は一般兵扱いだったんだけど、第一騎士団には所属していて、負傷したエミール隊長をサフィア王女が身を(てい)して守ったらしくて」

 前を向いていたシャングがアステルの方に向き直る。

「サフィア王女の決め台詞がカッコよくって『私は私の星を守ります!』って気合い入れてから強敵に向かっていくらしい…………って、あーなるほど」

 シャングは熱く説明していたが途中で何故か冷めて納得しだした。


「?? どしたの?」

 アステルも続きが気になって首をかしげる。

「……いや、この国の国章の中に星のマークもあるから〝国を守る〟ってことを言っているんだと言われてたんだけど……星ってお前じゃん」

 シャングにアステルの鼻あたりを指差された。

「あー……」

 アステルも指摘されてシャングが何を言いたいのか分かった。


 アステルの名前の由来は『星』だ。




「えー、サフィア王女様と昔から知り合いだったのか?」

「……まぁ……」

 アステルはシャングから目線を逸らしながら返事をした。

 多分、14歳ならサフィア様と偶然会ったあとになる。


「アステル、噂通りむちゃくちゃ愛されてるなぁ! だってサフィア王女様の数々の伝説が書き換わるぞ!『私は私のアステルを守ります!』になって、国のためじゃなくてお前の平和のために戦ってたんだろー」

 シャングは大興奮しながらしゃべった。

 両手をグーに握りしめているが、顔はニヤニヤ笑っている。


「やめて。なんかめっちゃ恥ずかしい」

 アステルは両手で顔を隠した。

「……あ、てか団長たちはアステルの名前を聞いた時から気付いてるかもしれない」

 シャングは目を見開いた。

 それから〝オレすごいことに気づいたかも〟って感じに得意げな表情になった。


「…………名前、変えたい」

 アステルは両手で顔を隠したまま呟いた。


 昔からの王女の愛がすごい。


 えーっと、俺も決め台詞の時何か言えばいいのか?

 ……ダメだ。何も思い浮かばない……


 アステルはお得意の現実逃避をしだした。




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