8:婚約式
次の日、婚約式ということでサフィア様とアステルは正装に身を包んだ。
式と言っても王族用の教会で王様の前で誓いの言葉を交わすものらしい……
参加者もごく数名で短時間で済むものだそうだ。
サフィア様の胸元には青い宝石のついたネックレスが輝いていた。
昨日言っていたローズ様と交換したものだろう。
サフィア様とローズ様の瞳を表すような宝石だった。
教会にはサフィア様の父親である国王様と、母親であるローズ様がすでに到着していた。
婚約式は教会に入る所から始まる。
アステルとサフィア様はアステルのエスコートのもと、中央の女神像の前に立っている国王様の所までゆっくり歩いて行った。
そして2人で国王様の前に並んで立つ。
国王様は何を考えているのか分からない表情をしていた。
……サフィア様の話しでは俺たちのことよく思って無いんだよなぁ。
何言われるか怖い。
アステルは少し不安だった。
サフィア様がアステルと腕を組んでいない方の掌を自身の胸元にあてる。
アステルも同じように胸元に手を当てた。
サフィア様が一呼吸おいてから国王様とその後ろの女神像に口上を述べた。
愛の誓いの言葉だ。
有名なためアステルも知っていた。
確か『海よりも深く、星空よりも輝く愛を捧げます。いつまでも2人は一緒にいます』だ。
アステルはそう思いながらサフィア様を見つめた。
「ーーーー深い海を泳ぎ、あなたを必ず見つけます。星空を切り裂いてあなたを必ず守ります。何があっても貴方を絶対忘れず、死ぬまで一緒にいますーーーー」
「……」
国王様が苦虫を噛み潰したような顔をした。
誓いの言葉は、サフィア様がかなり脚色した愛が深い……愛が重いものだった。
サフィア様は国王様とは対照的に嬉しくてニコニコしている。
「……認めよう」
国王様が重々しく呟いた。
そしてアステルの方に向き直る。
「……こんな娘だが……よろしく頼む」
国王様がアステルの両肩をガシッと掴んで喋った。
……苦労、されてるんだな……
アステルはなんとなく察して遠い目をした。
「こんなとは酷いですわね。何しても良いから王族として残ってお兄様の補佐をして欲しいと言ったのはお父様じゃないですか」
サフィア様は少し口を尖らして不服そうに言った。
「いや、まぁそうなのだが……昔からサフィアのアステル殿への執着具合が怖くてな……」
国王様は消え入りそうな声で言った。
アステルは大きく縦に首を振りたかったがサフィア様の前なので出来ず、目線で国王に訴えた。
昔からって何!?
聞きたいような聞きたくないような……
アステルは背中に冷や汗をかくのを感じた。
それと同時に国王様は味方だ!
というさっきまでの不安感は消え去り、謎の安心感に包まれた。
アステルの熱視線で何かが伝わったのか分からないが、国王様が再び口を開いた。
「アステル殿、くれぐれも元気で健やかにいておくれ」
「??」
「君がもし居なくなったりでもしたら、サフィアが生きる気力を無くすだろう。そうしたらこの王国はダメになる……」
「…………分かりました」
国王様が心配していることが何となく分かった。
もし俺が居なくなったら、サフィア様は毎日泣いて閉じこもって暮らしそうだ。
もし他国の人に俺が傷付けられたりしたら、それこそ戦争でも起こしそう……
そんな美しい王女様に愛されて、嬉しさ半分、怖さ半分だが、サフィア様が笑顔で暮らせるなら隣にいるのも悪くないなと思う。
ちょっと国の存続に関わるようなキーパーソンになるのは荷が重すぎるけれど……
サフィア様は世間で囁かれているような暗黒姫ではなく、国民のことを考えとても王族らしい王女様だと思う。
人一倍頑張ってそれを健気に隠そうとしていることも少しずつ分かってきた。
「僭越ながら、添い遂げさせていただきます」
アステルは国王様を安心させるために苦笑しながら発言した。
感極まったサフィア様に横からぎゅうっと抱きしめられた。