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騎士団長レベルとの訓練戦も終わりギャラリー達も解散し出した時に、サフィア様がアステルに話しかけにきた。
「アステル。応援してくれていたのですか?」
サフィア様がアステルの両手を自身の両手でそれぞれ握ってきた。
「え、あっはい」
アステルがいきなりの触れ合いにドキドキしながら答える。
サフィア様の小さい手には所々剣ダコがあった。
「これから剣術の特訓の時間ですわね。頑張って下さい」
サフィア様がスッと目を細めて笑う。
「失礼ながら……」
2人の様子を見ていたウィリアムが話しに入ってきた。
「サフィア王女様直々に少し訓練なさってはいかがでしょうか? アステルは筋も良く順調に成長していますよ」
そう言ってウィリアムがアステルに向かってウィンクをする。
ウィリアム騎士団長!!
エミールが指導者は嫌だって言ったから、サフィア様に少しでも変えようとしてくれているんですか?
なんて優しい人なんだ……
でも、サフィア様の訓練の方がきつそうに思うのは俺だけでしょうか……
アステルは心の中で嘆いた。
「……少しだけなら良いでしょう。ここは第一騎士団が今から使う準備をするでしょうから、室内の訓練場がいいですわね」
サフィア様は少しウキウキしながら、握っていた片方の手を離し、もう片方は手を繋いだままでズンズン歩きだした。
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室内の訓練場はこぢんまりとしていた。
アステルも訓練着をきて練習用の剣を持つ。
向かいにはサフィア様。
そして訓練場の周りにはウィリアムとエミールがいた。
「アステルと一緒に訓練してみたかったんだよね」
サフィア様がアステルにだけ聞こえるように言い、ニコっと笑った。
「お手柔らかにお願いします」
アステルは若干引きつった笑顔を浮かべる。
ノリノリなのは、それはそれで怖い!
「じゃぁ、始めましょうか」
サフィア様が身構えた。
アステルも剣を構えてサフィア様を見た。
「良い感じですね」
「そこ、もう少し踏み込んで」
剣を交えながらサフィア様が指導してくる。
悠長に喋れるぐらいサフィア様は手加減をしてる模様。
サフィア様の一撃は思ってたよりも重い。
アステルは必死に喰らい付いた。
あぁ、でもエミールとの鍛錬のおかげか、王宮に来る前よりは強くなってるような?
そう少しだけ過信してしまった時、サフィア様からの素早い一撃が来る。
アステルの攻撃を剣で避けながら、クルッとターンしてその勢いに攻撃をのせた横方向への一振りだった。
もろに浴びてしまい、アステルは体勢を崩し座り込んで練習用の剣が当たった横腹を押さえた。
「痛って…………!!」
剣は刃を潰されているので切られることはないが当たれば痛い。
エミールとの鍛錬時にもよくあることだった。
『ガシャン!!』
サフィア様が持ってる剣を落とした。
「ーーーーっ!!!!」
顔面蒼白で泣きそうな顔をしている。
手は剣を両手で握りしめていたのが少し緩んだままになっている。
そしてその手は少し震えていた。
「……無理です…………これ以上は無理ですわ」
サフィア様が俯きながら言う。
「??」
アステルは困惑しながらサフィア様を見つめた。
「……アステルがケガをしたら、わたくしも死にそうなので無理ですわ……」
「……」
サフィア様がすごく大袈裟なことを仰っている。
アステルは呆然とした。
このお姫様は発言が時々重い。
そしてアステルに向ける愛情も重い。
「こ、このぐらい大丈夫ですよ」
アステルは必死にフォローした。
「……」
結局、気分が優れなくなったサフィア様は侍女たちに支えられながら、その場を退場した。
「……愛されてるねぇ」
そばで見ていたウィリアムが苦笑しながらアステルに向けて言った。
本当に、怖いぐらい愛されてることの片鱗が垣間見れる出来事だった。
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その日の午後の勉強の時間、クラリッサ先生とのいつものお茶会のはずが、急きょサフィア様とのお茶会に変更された。
どうやらアステルのケガの具合を気にしているらしい。
サフィア様とアステルの宮殿内で2人用の机と椅子がセッティングされた。
「ケガは大丈夫かしら?」
サフィア様が紅茶を一口飲んでカップを置き、不安げに揺れる青い瞳でアステルを見てきた。
「大丈夫ですよ。あのぐらいエミールとの鍛錬で毎日負ってます」
アステルは苦笑しながら言った。
俺のこと心配し過ぎでは?
けれど少しくすぐったい気持ちになる。
「……良かったわ」
サフィア様が眉を下げたまま笑った。
「取り乱してごめんなさい。訓練を一緒にしたかったのですが……」
サフィア様が本当に残念そうにしている。
アステルはどうにか元気付けたくて
「じゃぁ俺が騎士団長ぐらい強くなったら訓練つけて下さい」
と少しおどけながら言った。
「フフッ。そうですね、アステルは覚えが良いのですぐに到達するでしょう」
サフィア様は目を細めてニコッと笑った。
アステルはホッとして紅茶に口をつけた。
あれ?? この味……
アステルは冷や汗をかきだした。
なんですでに甘く……?
紅茶はいつも家で飲んでいた味がした。
茶葉の種類もアステルが1番大好きなもので、甘党のアステルが好む砂糖の配分だった。
甘い紅茶が好きなことがどこか子供っぽいとアステルは恥ずかしく思い、王宮に来てからは少し無理をして砂糖を混ぜずに飲んでいたのだ。
背筋がゾクゾクする。
「どうしたのかしら?」
様子がおかしいアステルを心配して、サフィア様が覗き込んでくる。
「……いえ、紅茶美味しいですね」
アステルは頑張って笑顔を浮かべた。
「良かったわ。紅茶を淹れるのが好きなので、今日の紅茶はわたくしが用意したのよ」
サフィア様が口元に弧を描き優雅に微笑んだ。
リサーチしたんですか!?
王家の力を持ってして俺の趣味嗜好をリサーチしたんですか!?
ストーキング力、半端ない!!
それからもサフィア様がアステルの好きな物を普通に知ってる場面に出会すたびに、アステルの背筋はゾクゾクした。