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5:訓練戦

「ハァ……ハァ……」

 今日もエミールによる剣術の特訓は過酷だった。

 アステルはへばって地面に仰向けに横たわっている。

「……少し休憩だ」

 エミールはそう言って何処かに言ってしまった。


 ……っきっつい!

 つらい……辞めたい……帰りたい……


 アステルは涙が出そうになるのを歯をくいしばって耐えた。


 何でこんなことしてるんだっけ?

 あー、王女様の結婚相手になるからかー

 王族になるからかー

 

 そんな覚悟まだ微塵もないし。

 なれるのか?

 あの王女様の隣に立つなんて……




「アステル?」

 仰向けのアステルを覗き込む人物がいた。

「……シャング?」

 アステルはゆっくりと起き上がった。

 侯爵家で住んでいた時の友達が目の前にいた。

 

 焦茶色の癖っ毛の髪に黒色の瞳。

 薄っすら日に焼けた肌はハツラツとした彼に似合っていた。

「やっぱりな! サフィア王女様の結婚相手ってお前だったんだ!」

 シャングは立ち上がったアステルの肩をガシッと組んで再会を喜んだ。

「どうしてここに?」

 アステルが尋ねる。

「オレ、騎士団に入ったんだ」

 シャングはそう言って第一騎士団の方を指差した。

 

「いいなーウィリアム団長の所かぁ。俺もあのまま侯爵家にいたら、騎士団に入団する道もあったのかな……」

 アステルは顔を伏せながら呟くように言った。

「えー、なんだお前、サフィア王女様と結婚するの嫌なのか?」

「しー!」

 アステルはすばやくシャングの口を塞いだ。

 そしてキョロキョロ辺りを見回す。

 幸い近くに人はいなかった。

「不敬罪になるかもしれない……」

「……」

 シャングは眉をひそませた。



 それから、シャングはアステルを訓練場から離れた広い階段に連れて行き座らせた。

 ここならあまり人通りがない。

 シャングも隣にドカッと座る。

「噂ではお前、王女様に惚れられたんだろ? いいじゃん。あんな美人に」

 シャングはニヤっと笑った。

「……王族になるって大変なんだぞ。けど、ほんとあんな美人に好き好き言われたら、断れない……悲しい男のサガ。俺、本当は年下が好き……」

 アステルは頭を抱えた。

「贅沢な悩みだなー」

 シャングは両手を組んで自身の頭の後ろに持って行った。


「考えてみてくれよ。サフィア様の方が俺より何でも優れてるんだぞ。隣にいるのは気が引けるんだ……」

「……そうだなー。あの姫様めちゃくちゃ強いからなぁ……」

 シャングが何かを思い出してか、遠い目をして答える。

「?? サフィア様と戦ったことあるのか? それとも戦ってるところを見たとか?」

「あー、アステル知らないのか。たまに姫様直々(じきじき)に騎士団長レベルの人に訓練をして下さるんだ。ちょうど明後日にあるそうだから、お前も見学すれば?」

「……見てみたいけど、俺、今よりもっとへこみそう……」

 アステルは項垂(うなだ)れた。

 隣にいる友人は人ごとだからとアハハと笑っていた。





**===========**


 翌日、訓練場の周りはギャラリーで賑わっていた。

 シャングに聞いた通り騎士団長たちとサフィア様の訓練戦があるからだ。

 アステルもシャングと並んで、訓練場の周りに陣取っていた。


 アステルはやっぱり疲れて先に寝てしまい、翌朝隣にサフィア様がいてギョッとする体験を2回こなしてこの場にいた。

 

 本当にあれ、毎朝心臓に悪い……

 

 しばらくすると、ウィリアム騎士団長と騎士服を着たサフィア様が入ってきた。

 髪は編み込んで1つにまとめてある。

 戦いの女神のような(たたず)まいだ。


 並んで歩く2人は絵になる。

 俺より断然、お似合いの2人に見える。

 ……


 アステルは少し胸が痛んだ。



 ウィリアムとサフィア様が定位置に付き、お互いを見る。

「始めましょうか」

 サフィア様の透き通るような声が聞こえた。



 訓練戦が始まった。

「やっぱり強いなぁ……」

 アステルの隣でシャングが思わずと言ったように呟く。

 ウィリアムはとても強かった。

 あの線が細い体からは考えられないような豪快な剣捌き、力強い一振り、大胆な足運び。

 

 けれどそれを上回るのはサフィア様の強さだった。

 力は強くないけれど、俊敏な動きに軽快なステップ、相手の弱点を付いての連打、連打、連打……

 

 サフィア様はウィリアムの剣を滑らかな動きでいなすと、舞うように回り込み真横に剣を振り抜く。

 ウィリアムは慌てて剣でその攻撃を防ぎながら、横に飛び退くのと同時に体勢を立て直す。

 けれど徐々にサフィア様の形勢が有利になる。


「あれ? なんかサフィア様光ってない?」

 アステルがシャングに尋ねた。

 2人の戦いを目で追ったまま。

「あれだよ。〝鬼神が宿ってる〟っていわれる所以(ゆえん)だ」

 詳しく聞くと、戦いが白熱してくるとサフィア様から青白いオーラが薄っすら見えるらしい。

 その現象を〝鬼神が降臨した〟と呼んでいるらしい。

 

「え? 何その超常現象。みんな普通に受け入れてるのか??」

 アステルが大混乱してシャングに尋ねまくる。

「……うーん、そう言われるとよく分からん」

 シャングが目を閉じて言い切った。


「サフィア王女様はあの力を持ってして、この国の平和を守っているんだ。誰も不思議になんか思っていないぞ」

 アステルの後ろから声がした。

 振り向くと相変わらず不機嫌な顔をしたエミールが立っていた。


「お前たちが平和に暮らせているのは、サフィア王女様があの強さを他国に示しているからだ。他の国は迂闊に手を出せない」

 確かにアステルたちが生まれてから周りの国々でも大きな戦争は起きてなかった。

 

 サフィア様が弟王子たちに侵略させたことはあるが、もともと相手がこちらに何かしようとしたのに対して先手を切った形だ。

 比較速やかに戦いは終わり、被害も少なかった。


「……」

 アステルは舞うように戦う王女様を見つめた。


 しばらくするとウィリアムとの訓練戦が終わり、エミールの番になった。

 エミールは低い位置からの攻撃に弱いのか、サフィア王女は低姿勢からの連打を浴びせている。

 かと思いきや、相手の死角に回り込み踏み込んだ勢いで高く飛び、体をしなやかにしならせ全体重をのせた上からの攻撃。


 気がつくと、アステル達の近くにウィリアムがいた。

 タオルで顔の汗を拭きながらエミールたちの試合を観戦している。

「ウィリアム騎士団長! お疲れ様です!」

 シャングが声をかける。

「ありがとう。サフィア王女様はさすがに強いね」

 ウィリアムはニコッと爽やかに笑いながら答えた。

「戦ってる最中も表情を一切変えず、本当に心も強いお方だ」

 ウィリアムは畏怖の念をこめて戦っているサフィア様に目を向ける。


「?? 表情を一切変えず? 案外出てません?」

 アステルが声をあげた。

「ほら、今は少し楽しくって笑ってる……あ、少し劣勢になったので焦った表情に」

 アステルはサフィア様の表情について、ありのままを喋った。


「いや、無表情に見えるけど……」

 ウィリアムが困惑して眉毛を下げている。

 シャングも頭にハテナを浮かべていた。

「……??」

 アステルも話しが噛み合わないので首をかしげる。


「……なるほど。君がなぜサフィア王女様の伴侶に選ばれたのか分かったよ。王女様のことがよく分かっているんだね」

 ウィリアムがハハハっと笑いながら言った。

「アステルすごいな。サフィア王女様って感情が無いのかなってぐらい薄い反応しかオレ見たことないぜ?」

 シャングもちょっと不敬な発言をしながらもアステルに告げてきた。


 あれ?みんなにはサフィア様が無表情に見えてる??

 確かに王女として毅然とした態度を取っているけど、あんなに表情豊かなのに?


 どうなっているんだ??


 アステルはただただ呆然とした。


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