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【闇】が深い王女の愛が重すぎてゾクゾクするんですけど!  作者: 雪月花


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 アステルは日課である訓練場での鍛錬を行っていた。


 今日はウィリアム騎士団長が稽古をつけてくれている。

「良いですね。……だいぶ仕上がってきましたね」

 アステルの攻撃を剣で受け止めながらウィリアムが言った。

 アステルはすぐさま反転してウィリアムが防御した右側とは逆サイドから攻撃する。

 

 剣がぶつかる甲高い音が響く。

 

 アステルがステップを踏む度に汗が舞った。


 攻撃の合間にウィリアムに隙が出来る瞬間を見定め一歩踏み込む。

 そして一直線に切り込む。


「……お見事です。アステル殿下」

 ウィリアムが剣で防御しながらも後方によろけた。

 アステルは攻撃した体勢のまま全身で大きく呼吸し「……ありがとう」となんとか返事をする。


 青白い光の力を手に入れてから、飛躍的に能力が向上した。

 なんだか体が軽く戦うのが楽しい。

 

 


 ひとまず休憩ということで、アステルは従者に渡されたタオルで汗を拭く。


 そこにどこかへ出掛けていたエミールが戻ってきた。


「アステル殿下。第二騎士団との合同訓練の開催が決まりました」

「……合同訓練?」

 アステルが首をかしげて聞く。

「はい。国境の近くの平地まで遠征し、第一騎士団と第二騎士団で戦います。お互い相手を敵に見立てた訓練です」

「……なるほど」

 汗を拭き終わったアステルが従者にタオルを返しながら答えた。


 なんでも第一騎士団は王太子様が所持する騎士団なのだが、あの通り表に出てこないから第二王女であるサフィアが仮に所持している。

 第二騎士団は第三王子の弟君が、第三騎士団は第四王子の弟君が所持する形らしい。


 そしてたまに有事の時に備えた合同訓練を行うらしい。

 規模が大きいので王都から離れて少し辺境の土地へ遠征する。

 大掛かりな訓練だ。


「……数日かけて?」

 アステルがエミールに聞く。

「そうですね。3日ぐらいは掛かるんじゃないでしょうか?」

「……」

 エミールの返事を聞いたアステルが黙り込む。


 ……3日も執務が出来ないって知ったら、ルカが荒れるだろうなぁ……


 アステルは思わず空を見上げた。




**===========**


「聞きましたよ。合同訓練に行くらしいですね」

 サフィアの執務室でさっそく笑顔のルカに圧をかけられた。


「……留守の間、よろしくお願いしますわ」

 サフィアが書類に目線を落としたまま喋る。


「この時期、本当に嫌なんですよね。……王太子様が合同訓練に行って、サフィア様は残ればいいんじゃないでしょうか?」

 ルカはイライラしているのか、人差し指で机をトントン叩く。


「では、説得なさって」

 サフィアはルカの方をみて笑みを浮かべて首をかしげる。

「無理ですよねぇ!」

 ルカが食い気味に言う。

「アステル殿下はいますよね?」

「……俺も行きます」

 アステルは眉を下げながら笑みを浮かべた。

 ルカが困惑しながらも笑顔を絶やさないので釣られてしまう。


「アステル殿下……素直にこちらの言うことを聞いてくれるので仕事をすんなりと覚えてなかなか使える……いえ、助かっているのに……」

 ルカが動揺しすぎて本音が漏れている。


 アステルは自分でも不思議だったが、執務がある程度人並みに出来た。

 かといってまだサフィアより出来るわけでは無いのでルカが結局は苦労しているのだが……


 今ではルカの補佐をアステルがしているような形だった。


「もういっそ、私も訓練に参加しましょうか」

 ルカが自暴自棄になって言う。

「訓練も大変よ。野営したり自炊したりするのよ」

 サフィアが残念な人を見るような目をしている。

「貴方たちは王族なので、立派な仮説テントや用意された豪華な食事じゃないですか。……あ! 執務を持っていけばいいんじゃないですか??」

「執務机は流石に持っていかないわよ」

 サフィアがますます怪訝(けげん)な目付きになる。


 そしてわぁわぁ騒いでいるルカを半ば無視してアステルの方を向き

「……いつも訓練前はこんな感じなのよ。ほっときましょう」

 とサフィアが冷たく言い放つ。


「合同訓練かぁ……」

 アステルは初めて参加する訓練はどんな感じなんだろう?と考えていた。

「アステルと遠出するの楽しみだね」

 さっきまでとはうって変わって頬を少し赤く染めたサフィアがコソコソっと喋ってきた。

「そうだね。俺も楽しみ」

 サフィアの様子が可愛かったのでアステルも笑顔で答える。


「そこ! 楽しそうにしないで下さい!」

 荒れているルカにビシッと指をさされる。


 アステルたちは慌てて執務に戻った。


 波乱の合同訓練前の平和なひとときだった。




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