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今日はなんと、アステルも執務の実践デビューの日だった。
ゆくゆくはサフィアの伴侶として執務を2人で行なっていかなくてはいけない。
……出来るかなぁ……
アステルは不安でいっぱいの中、サフィアと連れ立って王宮の廊下を歩く。
サフィアの執務室に行くのは久しぶりだ。
前回みたいに通り道にいる従者たちが恭しく礼をする。
もうアステルを認識しているからか、不思議そうに首を捻る人はいない。
……ちょっと感動!!
アステルは少しだけジーンとした。
……頑張ってるもんなぁ、俺……
そして誰も褒めてくれないから、自分で自分を褒める。
いや、実際よくやってるよ、俺。
王族だぞ、王族の大役をこなそうとしてるんだぞ。
普通なら責任感で押し潰されそうになるよね……
アステルは隣を歩くサフィアの美しい横顔を見つめた。
サフィアの母君は絶世の美女として王宮に召し上げられた。
その娘であるサフィアも、もちろん絶世の美女であるが黒い噂が多すぎてそちらの方がインパクトが強い。
……サフィアは王族が嫌になったりしないのかな?……
アステルはふと思った。
丁度その時にサフィアの執務室についた。
「おはようございます」
扉を開けると、中性的な顔立ちの青年が中に立っていた。
肩にかかりそうな長さのサラサラした髪はアッシュがかったゴールドだ。
ニッコリと笑った彼からは人当たりが良さそうな雰囲気を感じる。
「おはようございます。ルカは今日も早いのですね」
サフィアが王女様モードで挨拶をする。
「初めまして。アステル殿下。わたくしはルカと申します」
ルカが礼をとりながら自己紹介してくれた。
……ルカ……
確かヴァンデ首相の息子でサフィアの補佐をしている人……
それからアステルも簡単に自己紹介して挨拶を済ます。
「さてと。さっそくですが王太子様の分の執務を持ってきました」
ルカは笑顔でそう言うと、あらかじめサフィアの執務机に置かれていた書類の束を差し示した。
「……お兄様、最近何か楽しいことを始めたのかしら? 執務の量が多いわね……」
サフィアが少し目付きを鋭くしてルカを見る。
「……投げてますね。完全に王太子の仕事を放棄し出しています。……もうサフィア様が女王になった方がマシなんじゃないでしょうか?」
ルカがニコニコ笑顔のままアステルたち2人に話しかける。
「……でもサフィア様とアステル殿下はフィジカル全振り夫婦ですからね……はぁ。どっちが私の負担が減るのでしょうか?」
ニコニコ笑ったままため息をつく。
「ルカって本当はお兄様の側近なの。執務が回らな過ぎてちょっとおかしくなってるのよ」
サフィアがきょとんとしているアステルに向かって説明してくれた。
「おかしくなっているとは失礼ですね。さぁお喋りはここまでにして執務を始めますよ」
ルカが相変わらず笑顔で言う。
……すごい苦労人そうだ!
不憫……
アステルは初対面だけど失礼なことを思った。
新しく用意されていたアステル用の執務机でまずは簡単な作業をする。
書類の内容を読み取って仕分ける作業だ。
……なんか仕事してるって感じ!
サフィアは書類1枚1枚に丁寧に目を通してサインをしたり、何やら書き込んでいたりする。
ルカは出来た書類に目を通してチェックしていた。
しばらくして、仕分けた書類をルカに提出する。
「……うん。いいですね、アステル殿下は思ったより飲み込みが早そうですね」
ルカが笑顔でそう言ってくれた。
「ありがとうございます」
アステルはホッとして笑顔で答える。
「……サフィア様、アステル殿下めちゃくちゃチョロそうなんですが……」
ルカがサフィアの方を向いて真剣な表情で言う。
「……可愛いでしょ?」
サフィアが書類に目を向けたまま、少し口元を緩めた。
「……素直な王族は初ですね」
ルカが驚愕の表情でアステルを上から下まで見た。
ちょっと、なんか失礼だな……
アステルはさっき自分もルカに対して失礼なことを思ったことは棚に上げて、困惑しながらその視線を受け止める。
それと同時にサボりがちな王太子と執務があまり得意じゃない王女に挟まれてやっぱり苦労してるんだな……とますます不憫に思った。
「ルカ、ここが分からないわ」
「……これはこっちでいいのかしら?」
「これはお兄様に決めてもらいましょうか」
サフィアが頻繁にルカを呼ぶ。
その度にルカが立ち上がってサフィアの近くに行き、片手を執務机についてサフィアの持っている書類を覗き込む。
「ふーむ……そうですね。王太子様に返しましょう」
ルカがそう言ったので、サフィアがルカの方を見上げながら書類を手渡す。
それを何となしにルカが受け取る。
その時に手が触れ合ってもお互い何も思ってないみたいだ。
「……」
なんかモヤっとする。
近くない? 2人の距離近くない??
アステルはたまに2人の様子を盗み見しながら思った。
首相のヴァンデに、2人が結婚することを勧めてたって聞いたから?
……いや、違うな。
嫉妬だわ。
まじかー……
アステルは自分の心境の変化に戸惑いながらも執務を続けた。
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執務がひと段落し、アステルの今日の分の執務は終了した。
王太子の分がほぼ終わったので、ルカはサフィアの執務室から大量の書類を持って去っていった。
今は休憩もかねてのティータイムだ。
サフィアの執務室にある、あの質の恐ろしく良さそうなソファに座って紅茶を飲んでいる。
うん。座り心地が半端なく良い。
「……」
「どうしたの?」
隣に座るサフィアが、いつもと違う様子のアステルを心配して見つめてくる。
「……」
アステルは何も言わずにそっとサフィアを抱きしめた。
「……? 疲れたの?」
サフィアの優しい透き通る声が近くで聞こえる。
小さい子供をあやすようにサフィアがアステルの頭をそっと撫でる。
サフィアを抱きしめていると、心のモヤモヤも少し晴れた。
……サフィアがよく抱きついてくる気持ちが分かったような気がした。




