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「何で俺なんですか?」
サフィア王女様の結婚相手を俺に決めた宣言の後、そのままアステルと王女様のお茶会に移行した。
パーティ参加者たちは撤収をし始めている。
アステルは恐れ多くもサフィア王女様に質問した。
どうしても気になって仕方ないからだ。
「好きだからです……」
サフィア王女様が下を向いて少し頬を染めた。
その可愛らしい仕草にアステルもドキッとした。
……ってちがーう!!
アステルは正気に戻るためにまた首を振った。
「……いつから……?」
「ずっと前からですわ」
「……俺を知ってた……?」
「ずっと前からですわ」
「……」
アステルは動揺し過ぎて敬語を忘れて普段の喋り方をしていた。
「……会ったこと……ある?」
「……」
サフィア王女は上目遣いでアステルを見てニッコリ笑った。
「ありますわ」
その魅惑的な笑みにアステルの胸がキュッとした。
その時、忘れられない思い出の中のお姉さんとサフィア王女様が一瞬重なって見えた。
「……あの時の、泣いてたお姉さん?」
「……そうですわ!」
サフィア王女様が嬉しそうに頷く。
アステルは放心しそうになった。
うーんと、だからアレだ。
幼いころにお姉さん=サフィア王女様に会って、たまたま泣いてて、慰めて……。
そのあとの会話は覚えてないんだけど……。
その時からサフィア王女様は俺のことが好きで……?
それだけで結婚まで考える!?
アステルの脳内は忙しかった。
頭を抱えたかったのだが王女様の前なのでなんとか平然なフリをして我慢する。
「あの時の約束を果たしましょう。結婚して下さる?」
サフィア王女様が楽しそうにクスクス笑う。
あの時って慰めたあとかな?
何言ったか覚えてないけど、結婚の話しなんかしたかな?俺。
けどそんな重大な約束、覚えてないとか言ったら不敬罪で処刑されそう……。
アステルは勝手に最悪の結末を想像して震えた。
「……はい。ヨロシクオネガイシマス」
そして、何とか返事を絞り出したのだった。
「良かったですわ! お父様には前々からアステルが良いってずーっと言っていたのよ。だけど若すぎるから待てーだとか、違う人にも目を向けてみろーだとか、酷いこと言うの。しまいにはアステルと同じような歳の違う人をせめて見ておくれってこんなパーティ開いて……茶番だわ」
サフィア王女様がお父様と話し合った時を思い出しているのか、おこり気味な口調で説明してくれた。
サフィア王女様のお父様……国王様。
俺、気持ち分かりますよ。
なんでこれといって取り柄のない侯爵家の三男坊なんだって思ってますよね……。
俺もなんで選ばれたのか、理由を聞いてもよく分かっておりません。
………………。
アステルは現実逃避なのか、頭の中の国王様に語りかけ出した。
「結婚の話もまとまったことですし、アステルは今日から王宮に住んで下さいね」
美しい王女様は目をスッと細め優雅に笑みを浮かべた。
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「ここが今日から暮らす宮殿ですわ」
サフィア王女様がみずからアステルを案内してくれた。
ウキウキでアステルのエスコートの腕に自分の腕を絡めている。
少し威圧感のある王女様だが、横に並んで立つとアステルの頭1つ分ほど背が低かった。
甘くて良い匂いがする……。
アステルはいきなりの距離の近さにドキドキしていた。
自分が置かれている状況的にはそんな場合じゃないのだが。
宮殿は王宮に比べるとこぢんまりしていたが、中は王族が過ごすだけあって豪華な造りになっていた。
2人で暮らすには贅沢な場所だ。
庭には色とりどりの花が咲きほこっており、とても美しい光景が広がっていた。
近くには噴水か何かがあるのか、水音が聞こえる。
「今日のためにわたくしがいろいろ整えましたの」
隣にくっついているサフィア王女がアステルを見上げながら頬を染めて微笑む。
「……」
その可愛らしい表情にアステルは思わず見惚れた。
けれどそれと同時に疑問が生まれる。
今日のため?
俺は前々から今日からここで暮らす予定だった?
……計画的!!
アステルは自分の知らないころからサフィア王女様に狙われて準備されていた事実に青ざめた。