18
怒涛の展開だった模擬戦が終わり、疲れただろうからと午後のクラリッサ先生の授業はお休みにしてくれた。
3時のティータイムには時間を作ってくれたサフィアが宮殿に駆けつけてくれた。
広いソファに隣あって腰掛け、紅茶を飲んで一息つく。
「本当におめでとう! しかも青白い光の力も出せたんでしょ? 良かったね」
サフィアが少し前に屈んで隣のアステルの顔をのぞきこむ。
サフィアのいつもの甘い匂いが辺りに舞う。
「ありがとう。……この力は何なの?」
アステルは困り顔で聞いた。
こんな超常現象、サフィアに前振りされていても自分に起こるとは一切思っていなかった。
「んー、神様が授けて下さったんじゃないかな? 生まれた時から持ってたから分からないの」
サフィアも眉を下げて困っていた。
「アステル、怖いの? 気持ちは分かるけど、私はこの力でみんなを守れるからとっても嬉しい」
サフィアがそう言って、両手で自身の胸の中央を押さえた。
……怖い? そうかもしれない。
いきなり強力な力を持ってしまってすごく戸惑っている。
サフィアもそうだったのかな?
……守るための力かぁ。
アステルは嬉しそうにしているサフィアをじっと見つめた。
「……?」
それに気づいたサフィアが〝何?〟というような目線を投げかける。
「……俺がこの力を持ってるから、サフィアに選ばれたの?」
アステルは気になっていたことを聞いた。
サフィアはアステルの内にこの力が宿っていることを知っていた。
もしかしたら初めて出会った時から分かっていたのかもしれない……
「……さぁ、どうだろう?」
サフィアが上目遣いで唇は弧を描き、あの魅惑的な表情をする。
そのあと目線をそっと横に逸らした。
……はぐらかされてる?
アステルは少しモヤっとした。
「けど、力が発現しなくてもアステルはアステルだよ。そばに居てくれるだけで嬉しいの。私と貴方は対の存在」
サフィアが顔を上げてアステルを見つめる。
そして自分の唇を指差した。
サフィアからのキスのおねだりの仕草だ。
アステルは顔を近付けてサフィアの唇にキスを落とした。
アステルが赤くなっている顔を離してサフィアを見ると、嬉しそうに微笑む彼女と目が合った。
深い海のような優しい瞳に吸い込まれそうだ。
そして、ぎゅうっと抱きつかれた。
2人きりモードのサフィアは本当に可愛い。
アステルは照れながらもやわらかく抱きしめ返した。
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それからの騎士団での鍛錬は、青白い光の力を使いこなすのが目下の課題になった。
アステルの青白い光の力は、純粋に力を増幅させるものだった。
「素直で一直線な殿下の攻撃スタイルによく合ってます」
エミールに笑いながら言われた。
おそらく、フェイントとか高度なことは出来ないって遠回しに言われてるよね!?
アステルは少しだけ怪訝な目で見返した。
ちなみにサフィアの青白い光の力は、主にスピード力が増幅するらしい。
彼女の攻撃スタイルによく合っている。
「アステル殿下! お疲れー」
いつもの階段で休憩してると、シャングたちが声をかけてくれた。
「……殿下って、まだ慣れないなぁ……」
アステルが少し照れてフイッと顔をそらす。
「まぁ名前の呼び方変えたぐらいだけどな!」
トニーがそう言って笑いながら階段に座った。
確かに仲がいい友人たちからは、あまり畏まった態度を取られていない。
急に態度を変えられても距離が出来て寂しく感じそうだったので、アステルにはありがたかった。
「順調に王族として育っていってる感じだなー」
イーサンも笑いながらアステルの前方の階段に腰掛ける。
「うーん、でも最近は騎士団のみんなに認められたからか、王太子派の人たちの嫌がらせの噂話が凄くなったかな……」
アステルは苦笑しながらみんなに言った。
「……例えば?」
階段には座らず、サイドの壁面にもたれかかっているシャングがアステルを見ながら言った。
「……例の鬼神の力が出せるようになったから、王女様の力を分けてもらっただけで能無しだーって感じのことを……。あとは国王の座を狙ってる下賤な奴だって感じのことを言われてるかな」
アステルが肩をすくめながら言う。
実際は貴族らしくもっとお上品で遠回しな言い方だけど。
ある程度の悪い噂は仕方ないよね。
サフィアだって暗黒姫って言われてるんだし。
アステルは諦めの境地で遠くを見つめた。
「じゃぁオレたちで違う噂流そうぜ!」
イーサンが〝良い事思いついた!〟という感じでポンと自分の手のひらを打った。
「それならアレ使おう!〝お星様〟」
シャングもノリノリで発言してイーサンを指差す。
「……?」
アステルが頭の上にハテナを浮かべていると
「お前……っではなく、アステル殿下はサフィア様の〝私の星を守る〟発言から、あまり見知ってない騎士団の奴らから〝お星様〟って呼ばれてたんだ」
とトニーがニヤニヤしながら教えてくれた。
「ちょっと! それは……!!」
アステルが恥ずかしすぎて抗議しようとすると、友人たちの会話に掻き消される。
「いいな、それ! 攻撃する時に星が出るとか!?」
「あはは!! めっちゃいいじゃん!!」
大笑いしているシャングたちが、どんどん盛った設定を考えていく。
「……王太子派の噂の方がずいぶんマシかもしれない……」
アステルは誰も聞いてくれないと分かっていたが、頭をかかえて思わず呟いた。
その後、うるさくし過ぎた4人は、やっぱりエミールに叱られ、厳しく鍛え直された。