17:模擬戦
「今日はエミールとの模擬戦らしいね。頑張ってね!」
宮殿のテラスでの朝食中、柔らかく笑ったサフィアにそう言われた。
「時間が取れそうに無いから見に行けないの。残念。でも応援してるね!」
「うん。ありがとう」
アステルも微笑み返した。
あー、まぁいつものようにボコボコに負かされる可能性もあるわけだし、見られなくて良かったかも……
アステルは少しだけ安心した。
模擬戦と言っても、エミールとアステルの鍛錬中の風景とそう変わらない。
まぁ形式だけこだわって緊張感を出すんだろうなぁ……
そんな事を思いながら、アステルは朝食をほうばった。
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「あれ? ギャラリー多くない?」
騎士服に着替え、模擬戦用の剣を握ったアステルが訓練場の舞台に上がる。
そして誰に言うわけでもなく思わず呟いた。
「おーい! 頑張れよー」
「少しはもってくれよー」
シャングを中心に、第一騎士団の仲良くなった友人たちが固まってギャラリーに混じっていた。
ウィリアム騎士団長もいる。
よく見ると第二、第三騎士団の人たちまで……
一大イベント??
アステルは冷や汗をかいた。
「よし、始めるぞ」
先に舞台に立っていたエミールが戸惑っているアステルに声をかける。
「…………よろしくお願いします」
アステルは気を持ち直して定位置についた。
エミールとの模擬戦が始まった。
「わわっ! ……痛ってぇ!」
アステルはいつものようにエミールから一撃をくらい、後ろに吹き飛ばされるように倒れ込んだ。
「そんなんじゃまだまだダメだな。俺に勝たないと認めないぞ」
エミールはいつか言っていたセリフをまた言った。
アステルは素早く起き上がり、剣を構え直す。
「サフィア王女様は強い」
エミールがアステルに向かって間合いを詰め剣を振り下ろす。
「そのお方の隣に立つならば、お前も強くならなくてはいけない」
アステルはエミールの攻撃を剣で受け止める。
重い一撃なため歯を食いしばる。
「男だったら覚悟を決めろ!」
エミールが剣に力を込めながら叫んだ。
……覚悟……
覚悟って何だよ。
サフィアを守る覚悟?
……今は守られてばかりの俺がサフィアを守れるのかな?
アステルの脳裏に重い愛を囁きがちな凛としたサフィア王女の姿が浮かぶ。
背筋を真っ直ぐさせ遠くを見る目は国民たちの幸せを、平和を、誰よりも祈っている。
そんな彼女の前を歩くことは出来ないかもしれないが、せめて、隣に並びたい。
いや、隣に並ぶんだ!!
そう強く思った時、胸の奥が熱くなった。
初めは蝋燭の炎が灯ったぐらいの小さなものだったが、徐々に全身に広がっていく。
それと共に力がみなぎる感覚がした。
「お……れは……強くなって……みせる!!」
アステルは叫ぶと同時に剣で競り合っている状態から一気に振り抜いた。
……初めてエミールとの力比べで勝てた!!
アステルは驚いた。
いつもなら剣で競り合うとエミールの力が圧倒的に強いため押し負けるのだが、今日は弾き返すことが出来た。
「……」
エミールも少し驚いていたが、ニヤッと笑って体勢を立て直しすぐさま攻撃してきた。
アステルは冷静に相手の動きを見ながら防御した。
隙をついて攻撃すると防がれるが力押しで振り抜くことが出来る。
よし!いけるっ!!
アステルは左下からの攻撃がエミールから繰り出されるまで耐え、その攻撃の間に合わせて素早く一歩踏み込んで剣を振り抜いた。
「「わー!!!!!」」
ギャラリーから歓声が上がった。
アステルの一撃が決まって、エミールが後方へと倒れていた。
「……勝て……た?」
アステルは目を大きく見開いて目の前の光景を呆然と見ていた。
「やった!!」
「すげーじゃん!!」
第一騎士団のシャングたちがアステルの方に駆け寄ってきた。
「……おっと! それ怖いから消してくれよ」
シャングたちはアステルの近くまできて急に止まった。
そしてアステルを指差す。
「それって??」
聞きながらも、アステルはひとまず剣を鞘におさめてみた。
怖いと言われて剣のことだと思ったからだった。
「その青白い光だよ!」
トニーが驚いた表情で言う。
「青白い?」
アステルが不思議に思いながら自分の手を見ると、青白い光に包まれていた。
よく見ると全身うっすら青白く光っているような……
「え? 何これ?」
アステルがパニクってシャングたちに両方の手のひらを突き出す。
「近づけるなよー! 危ないじゃんか!」
「それアレだろ? サフィア様と同じ鬼神の力だろ?」
友人たちが口々に言う。
「鬼神……」
サフィアがアステルの中にも眠っていると言ってた力だ。
いきなり力がみなぎったのはそのおかげ?
「あ、消えた……」
アステルがいろいろ考えていると青白い光は消えた。
「やるじゃん、アステル!」
「おめでと!」
いつものアステルに戻ると、友人たちが肩を組んだり、頭をワシャワシャしたりして一緒に喜んでくれた。
「アステル殿下」
気がつくと、近くに来ていたエミールにいきなりそう呼ばれた。
友人たちとの盛り上がりが一旦落ち着き、真剣な雰囲気のエミールの前にアステルは立った。
「……今までの数々のご無礼、お許し下さい」
エミールはそう言って片膝を立てて跪き頭を垂れた。
「いえいえ、いきなりそんなっ……」
アステルは突然の出来事に狼狽えた。
「私たち騎士団はアステル殿下に忠誠を誓います」
エミールが少し顔をあげて、優しい笑顔を浮かべて言った。
すると周りにいるシャングたちも、ギャラリーの騎士団の人たちも、エミールのように片膝を立てて跪き、頭を下げてくれた。
「……っ!!」
アステルは気付いた。
おそらくエミールに勝てるようになる事がアステルが王族として認められる試験のようなものだったのだ。
みんなが敬意を示してくれている。
……なんか、泣きそう……
頑張りが認められたようで、アステルは熱いものが込み上げてきそうだった。
「……よく頑張ったな」
そんなアステルにエミールが優しく声をかけてくれた。
「……はいっ!!」
アステルは泣くことを我慢し、満面の笑みで答えた。