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 ーーーーーーーーーー


 俺には幼い日の忘れられない思い出がある。


 確か6歳の時だった。

 たまたま親の用事についていったどこかの庭園で俺は迷子になった。

 彷徨(さまよ)って偶然たどり着いた所にいた綺麗なお姉さんが、遠くを見ながら泣いているように見えた。


 幼い俺は思わず声をかけた。


(泣かないで……!)


 ハッと驚いたお姉さんが青い大きな瞳で俺を見つめる。

 

 お姉さんは泣いていなかったが、俺を見た途端にハラハラと涙を流した。

 今まで見た中で1番綺麗な涙だった。


 その神秘的な姿に幼い俺の心は揺さぶられた。


(ーーーーっ)


 お姉さんが何かを言いながら幼い俺を抱きしめる。


 とても柔らかくて温かかった……。


 ーーーーーーーーーー


 


 なぜかとても大事な思い出で、心の中に大切にしまっていこう。

「……と今までは思っていました」


 思わず心の中の呟きが言葉となって外に漏れた。


「……??」

 目の前にいる美しい王女様が俺をうっとり見つめながら首をかしげている。

 

 俺はなぜかこの国の第二王女である、通称『暗黒姫』の目の前に座っていた。





**====数日前


 俺はアステル。

 

 侯爵家の三男坊。

 家を継がなくていいので、基本自由奔放に育てられた。

 

 貴族としてそれなりの勉強と、それなりの剣術の稽古しかしていない。

 16歳になった今、そろそろ将来はどうすっかなー?と何となく考えていたりした。


 そんな時に侯爵家の当主である父親に呼ばれた。


「何ー??」

 父親の執務室に軽々しく入る。

「アステル、お前にパーティの招待状が届いているぞ」

 アステルの態度に気にする感じもなく、父親は招待状を渡した。


「……王家の印……」

 

 アステルは嫌な予感がしつつも招待状を開いて読んだ。

「……サフィア王女様の……結婚相手を決めるパーティ!?」

 アステルは目をまん丸にして叫んだ。

「そうだ。上手く相手に選ばれたら特別対応で王族になれるらしい。玉の輿(こし)だな」

 父親が本気なのか冗談なのか分からないテンションで喋る。


「待ってくれ、サフィア王女様って、あの……暗黒姫!?」

 アステルの叫び声が侯爵家に木霊(こだま)する。




 

 第二王女であるサフィア・ヴァルディ王女。

 彼女は悪名高い王女様で有名だった。


 まず、サフィア王女の母君のローズ様は元々側室なのだが、後宮内での地位を押し上げ、今では王妃様と並ぶ……いや抜いている権力者なのではないかと言われている。

 そのためにサフィア王女が他の側室たちのバックにいる有力者たちを亡き者にしたのでは無いかと噂されている。

 

 次にサフィア王女は剣術がめっぽう強い。

 鬼神が宿っているなんて大袈裟に言われる。

 それで王女の弟である王子2人を強く鍛え上げ、不審な動きのあった他国を侵略させた。

 これにより王国はますます大きくなった。


 そして、1番年下の妹である幼い王女と隣国の王子との婚姻話を強引にまとめたとも言われている。


 弟王子を自分の配下のように扱い、妹王女を隣国に追い払ったことから、サフィア王女自身が国王になるのを虎視眈々(こしたんたん)と狙っていると言われていた。


 その腹黒さから『暗黒姫』と呼ばれていた。




「でもサフィア王女は22歳で……俺よりもっと歳が近いやつが……てか何で俺が招待されたんだ?」

 アステルは動揺しながらも首をかしげた。

「王女様の同世代には良い相手がいないらしい……16歳前後の相手をご所望しているそうだ」

 父親が淡々と説明する。


 ……変な(へき)をお持ちで!!


 アステルは声にならない叫び声を上げた。




 **===========**


 サフィア王女の結婚相手を決めるパーティ当日。

 パーティは昼間のガーデンパーティとして開催された。

 見事に16歳前後の貴族の少年たちが集められていた。


 アステルは目の前の異様な光景にドン引きしながらも、会場の隅で飲み物を飲んでいた。


 まぁこれだけ人数がいれば、選ばれることは無いだろうな。


 アステルは心の中で安堵した。

 自分はめちゃくちゃカッコいい訳でもないし、勉強も剣術も普通。

 平々凡々な存在だ。


 いける!

 アステルは逃げ切れることを確信し、心の中でほくそ笑んでいた。


 その時、会場に緊張が走った。

 どうやら王女様が来たらしい。




「ーーーーっ」

 一同が息を呑むのを感じた。

 サフィア王女様がゆっくり優雅に会場内を歩く。


 サフィア王女様はメチャクチャ美しかった。

 透き通るような白い肌。

 輝くような腰まであるホワイトブロンドの髪は、サラサラストレートで風に(なび)いていた。

 大きな海のような深い青色の瞳は少し吊り目で猫のような愛らしさがある。

 スラリとした四肢は触れれば折れてしまいそうだ。



 

 いやいやいや、でも暗黒姫だし!

 

 アステルはポーっと見惚れていたが、正気に戻ろうと首を振った。


 サフィア王女様は流れるような気品ある滑らかな動きで会場の前方、主役の位置にある椅子に座った。

 そこには机とサフィア王女様の向かいにもう一つ椅子があった。


 王女様がそばにいる従者に何か伝えている。


 会場のみんなは王女様の一挙一動に注目していた。




「アステル様……サフィア王女様がお呼びです」

「え、俺!?」

 なぜかアステルに従者から声がかけられた。

 思わずサフィア王女様を見ると薄っすら笑ってアステルを見ていた。


 ……こわっ!!

 

 アステルは背筋をゾクゾクさせながら、従者に言われるままに付いていき、王女様の向かいの席に座った。




 そして美しい王女様がゆっくりと口を開く。


「結婚相手は貴方にしますわ」

 王女様が目を細めてニッコリ笑った。


「「…………」」

 会場の時が止まったように音が無くなった。


「えーーーー!!??」

 アステルの悲鳴にも似た叫び声だけが響き渡った。



 

 








 

完結まで書き上げている作品です。

頑張って投稿しますので、よろしくお願いします。

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