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回文童話「蚊のいない野か (かのいないのか?)」
広い野原に、偏屈な蚊がいた。
血吸い名人の、スワヒメだ。
しかし、吸う血に好き嫌いがあったのだ。
「ああ、最近は良い獲物がいない。困ったものね」
と、ボヤくスワヒメだった。
「あっ。この野原、蚊がいないと聞いていたのに」
野原を横切っていた若い男性がボヤいた。
「刺されちゃったよ、ああ痒いカユイ!」
「えっ、見せて見せて」
一緒に歩いていた若い女性が、蚊に刺された箇所を見たがった。
「やった、スワヒメだわ」
と、ガッツポーズを見せる女性、ピコピ。
「ほら、血吸い跡に『姫』の紋が入ってる」
秩父にある、スワの野原のスワヒメである。
「な、なんだい、それ?」
都市伝説に疎い男性だった。
「スワヒメは、清らかな血しか吸わないんだって」
ピコピは姿勢を正して言った。
「わたし、あなたとお付き合いしたいんだけど、タカシさん!」
(名高い蚊だな) なだかいかだな
この物語はフィクションです。
実在の地名、人名とは関係ありません。
秩父に、「スワ」という広い野原があるのかどうか、知りません。
後の作品とのカラミで出しただけなので気にしないで下さい。