回文童話「読み聞かせ」
ゴローさんが、創作室で創作に励んでいると、ノックの音がした。
「どうぞ」
ゴローさんは書く手を止め、ドアの方を向いた。
入って来たのは、イチハチさんだった。
「今日の読み聞かせの話は、問題があったよ、ゴローさん」
部屋に入って来るなり、イチハチさんは言った。
「落ちて来たおむすびを食べたネズミが、喉に詰めて死ぬところは、良くなかった」
「そうかい?」
と、ゴローさん。
「子供のひとりが実際に、食べ物を喉に詰めて死んだばかりだ」
「そういう教訓だよ。今回のテーマだ。気をつけて欲しいので、あえて書いた」
「『おむすびころりん』という昔話によく似てる点も、評判が悪かった」
「元ネタだからね、仕方ないよ」
「明日は気をつけてくれ」
イチハチさんは、それだけ言うと、部屋を出て行った。
それからゴローさんの愚痴が始まった。
「分かってるさ。分かっているが、ぼくは元々、図書室の整頓係だったんだ」
「その職場が災いして、子供たちの情操教育のためだとか言って」
「創作担当係になって、このザマだ。創造主よ、なぜに我らを見捨てたまいしや」
人類は何度目かの世界大戦で、ほぼ絶滅した。
彼らロボットが日本中から集めてきたのは、ハルマゲドンに耐えたミュータントたちだ。
データにある人間とは形状が違ったが、新人類としてこの荒廃した惑星の支配者になる可能性はあった。
(そうしたら、また我々は彼らの、文明を支える快感と安心感を得られる)
ゴローさんは、そう考えていた。
「それまでの辛抱なのだが……創作って、ムズカシイ」
「明日の読み聞かせは、この日本を沈めてみるか?」
「それとも、日本以外を全部沈めてみるか?」
ゴローさんは今日も、「563」と刻印された頭頂部を叩いて、悩むのだった。
「面倒臭い創作め!」と。
(名作で臭い目)
めいさくで、くさいめ?
この作品には、星新一と、小松左京と、筒井康隆へのリスペクトが、含まれていることにします。
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いつまでも、頑張りたい。




