回文童話「賽銭泥棒」
某神社の境内が、今朝は騒がしかった。
「ついに捕まえたぞ、賽銭泥棒っ!」
神主さんが叫んだ。
「ち、違う。オレは賽銭泥棒じゃない」
地面に倒れている男が言い返した。
「嘘つきやがれ、賽銭箱をひっくり返しとったじゃねえか!」
「地面に散らばった賽銭を、蹴っておったじゃないか!」
「蹴ってたのは、意味不明だが!」
張り込んでいた街の防犯団員が、男を見おろして、口ぐちに言った。
「賽銭を蹴ってたのは、賽銭が憎かったからだ」
「訳の分からない言い訳するんじゃない、賽銭泥棒めっ」
「ええい、これでも喰らえっ」
賽銭箱をひっくり返した男は、鉄拳制裁を喰らった。
交番に突き出される男。
しかし、賽銭泥棒と思われた男は、賽銭泥棒ではなかった。
男は、賽銭箱泥棒だったのだ。
そして、中に入っている賽銭は、邪魔で、本当に憎かったのだ。
「けっ、ややこしい奴め」
「この人騒がせな馬鹿者めが」
「じゃあ、なにかい? 賽銭泥棒は他にいるってことかい?!」
その頃、賽銭泥棒は、神社の境内に賽銭箱がひっくり返り、地面にお金が散らばっているので戸惑っていた。
泥棒は、賽銭箱に入っている賽銭を盗むのが快感なのであって、地面にふしだらに転がるお金には、興味がなかったのだ。
(鉄拳制裁賽銭蹴って)
てっけんせいさい、さいせんけって
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