回文童話「満ち潮の時」
スナガニのスナ吉は、向上心が高かった。
そして、負けず嫌いだった。
(他のカニ仲間に負けたくない。立派な巣を作りたい!)
もっともな欲望であったが、
「蟹は甲羅に似せて穴を掘る」
のコトワザ通り、入り口をやたらと大きくしても、崩れる のが早いばかりだった。
「なにやってんだよ、スナ吉」
「肩のチカラを抜けよスナ吉」
「人生、のほほんだぜ、スナ吉」
仲間に笑われ揶揄われても、スナ吉は高みをめざした。
ある日、潮溜りに映る空を見て、
「太陽が、雲が、青空が、大地に落ちてきたようだ」
と、つぶやいた。
そして、スナ吉は閃く。
「そうか、発想の転換だ!」と。
潮溜りに映った空など、今まで何度も見てきたのに、
(なぜ今?!)と。
スナ吉は、自分でも不思議だった。
スナ吉は砂浜の上に、巣を造った。
ロココ調の、それはそれは立派な二階建ての巣であった。
その楼閣が満ち潮に崩壊しても、スナ吉の満足感と達成感が崩れることはなかった。
(二階建てだい蟹)
にかいだてだい! かに
同サイトにて、
回文妖術師・ビキラの冒険ファンタジー、
「魔人ビキラ」を連載中です。
よかったら、覗いてみて下さい。
「二階建てだ如何に」にかいだてだ、いかに!
でも良かったですね。
タイトルに関しては、眉村卓先生の「引き潮のとき」へのオマージュです。
短篇集の「司政官」シリーズと、「引き潮のとき」は、読みました。
そして、泉鏡花文学賞を取った時は、興奮しました。