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回文童話「ホーホケキョ」
その駅では、日本三鳴鳥のさえずりが、常時、流されていた。
大瑠璃。駒鳥。しかし、鶯のさえずりは聞かれない。
「なんで鶯がないんですか。同じ三鳴鳥なのに」
「おかしいじゃないですか」
「なんなんですか、なんなんですか」
乗客たちが、駅員に詰め寄っていた。
実は、野鳥観察団体、鶯倶楽部のメンバーであった。
「昔には、流したこともあったんですが、プラットホームで失笑が起きるんですよ。だから止めたんです」
駅員の返事は簡潔だった。
その駅員の返事に、
「それはそうかも知れん」
と、納得してしまう鶯倶楽部のメンバーたち。
野の散策で聞く鶯の、実際のさえずりはともかく、録音して流される鶯の鳴き声には、「失笑」「苦笑」という魔力があった。
しかし、鶯の声ばかり流している場所もある。
それは……
(鶯な水宮)
うぐいすなすいぐう
この物語はフィクションです。
実在する神社とは何の関係もないはずです。