回文童話「ビンゴレッド」
焼け石の上にも三年の修行を経て、ビンゴレッドもついに、西の賢者と呼ばれるようになった。
空き地で、公開討論会が行われている。
小さい開催地、であった。
「賢者様、悟りとはどのようなものでありましょうや?」
若い女性がたずねた。
「悟ろうと思うも迷い、と言いますな。裏の裏は表でありますから、迷いに迷っておれば、いずれ悟るのではありますまいか」
と、ビンゴレッド。
「賢者様、その真紅の衣にはどのような意味が? わしも同じものを着とうございます」
貧相な老人がたずねた。
「着てくれと言うものがおったので、着ております。あとであなたのズタ袋、いや失礼、服と交換しましょう」
と、ビンゴレッド。
「『天知る、地知る、チルチルミチル』とは、どういう意味でしょうか?」
中年男がたずねた。
「それは『ペンシル、地知る、チルチルミチル』の間違いです」
と、ビンゴレッド。
「『雨降って乳首固まる』とは本当なのでしょうか?」
若い男性がたずねた。
「雨に打たれて冷えたのでしょう。本当です」
と、ビンゴレッド。
「なんという即答。なんという無欲」
ビンゴレッドの回答を聞いて、大樹の陰から、こっそり様子を見ていた東の偉人は、大いに感心した。
「わたしも斯くありたいものだ」
夕暮れを尻ぬぐいするように、小雨が降りはじめた。
しかし、公開討論会は止まなかった。
ビンゴレッドの強欲を知る者は、ビンゴレッドしかいなかった。
ビンゴレッドは中々に、無欲の皮が突っ張っていたのだ。
(感じ入る偉人か)
かんじいるいじんか?




