回文童話「三太」
三太は、腰痛の父に代わって、捕り物に参加した。
そんな大きな捕り物は、初めてだった。
父親は、岡っ引き仲間に言った。
「なあに、十手と捕り縄は充分に仕込んである。役に立つはずだ」
しかし、仲間のひとり息子を死なせるわけにはいかない。
三太は厨房の見張りを言われた。
もう、調べが終わった場所である。
そこは天下の大泥棒、霧霧参左衛門とその一味の隠れ家だった。
外は大捕り物になっていたが、三太は暇だった。
「まあ、大事な捕り物だもんなあ」
と、三太は自嘲気味につぶやく。
そこへ、秘密の脱出通路を伝って逃げていた参左衛門が、落下してきた。
長い間使っていなかったので、参左衛門は床が腐っているのに気がつかなかったのだ。
打ち所が悪く、軽い脳震盪を起こして呻いている大泥棒。
「ろ、六尺近い大男。頬の刀傷。さささ参左衛門?!」
そこはそれ、岡っ引き。
父親も岡っ引き。
三平は習い覚えた捕り物術、無双賢心流卍早縄の法で、見事に参左衛門を縛り上げた。
しかし極度の緊張感から、喉がカラカラに干上がってしまい、声が出ない。
三太が口をぱくぱくさせていると、大泥棒を縛っている綱が、見かねて大声を出した。
「参左衛門、召し捕ったりぃ!」
ずっとずっと使い続けてくれた三太への、せめてもの恩返しであった。
(言い放つ綱は良い)
いいはなつつなはいい




