回文童話「魔運天山」
(うう。熱い。苦しい。なんでひと思いに焼き殺してくれないんだ)
毎年早春に行われる、山焼き行事に呻く魔運天山。
山焼きは、日を分けて、何度も繰り返されるのだ。
「どうして山焼きをするの?」
山の麓で、小さな女の子が両親にたずねている。
「こうすると、草木の新しい芽が沢山出てくるようになるんだって」
と、母親が答えた。
(そうなのか。それならば仕方がない。我慢しよう)
魔運天山は思った。
「お山を焼くと、オバケが出なくなるらしいよ」
と、今度は父親が答えた。
(おバケは怖い。山焼きはありがたい)
魔運天山は、強く思った。
「あと、害虫の退治もあるんじゃないかしら」
と、母親。
(虫が増えると、山がかゆくなるから嫌だ。ありがたい)
魔運天山は、しみじみと思った。
「悪い草木も入ってこれなくなるらしいわよ」
と、さらに母親。
悪い草木とは、ノバラやアキグミのことだ。
(そうなのか。ありがたや。ありがたや)
魔運天山は、深く深く感謝した。
肝心の、
「観光目的で燃やす」
という部分は語らない両親。
言うと、魔運天山が怒るかも知れないからだ。
こちらも、山焼きと同時に行われる行事、
「鎮静の会話」
であった。
(生焼け山な)
なまやけやまな




