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回文童話「村焼き」
「山焼き」
という行事が、全国にあるように、その地方には
「村焼き」
という風習があった。
廃村のまま、放っておくと、獣物が棲みつく。
胡乱な人間どもが出入りするようになり、
獣物にエサをやったり、
あちこち面白半分に放火したり、
ヘンテコなオブジェを作ったりして、危険なのだ。
「来週、村焼きするってよ」と、太郎丸。
「ああ、もうそんな季節かあ」と、二郎丸。
ふたりとも、村焼きの炎の洪水を思い出して、心臓の鼓動がちよっぴり速くなった。
「眠いけど、頑張るかあ、村焼き」と、太郎丸。
「村焼いてから、眠りゃいいのさ」と、次郎丸。
秋がそこまで来ていた。
まだまだ雪には遠かった。
村焼きは、厄払いの神事だったはずだが、いつしか地方の観光行事となっていた。
ともあれ村焼きは、秋を迎える大切な行事なのだった。
(村無き後秋ならむ)
むらなきあと、あきならむ