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回文童話「中崎屋」
魚屋が全焼し、商品は皆、焼き魚となった。
「名前が悪かったのじゃ。屋号を変えなされ」
町内の偏屈爺さんが言った。
意味を理解した者はいなかったが、
「そうかも知れん」
と思う者は多かった。
不幸があり、心がくじけている時に、なにやら声をかけられると、その人の言葉が、なんだか正しいような気がするものだ。
さらに言うと、人はそうやって心の隙間に悪魔を呼び込み、失敗を繰り返す。
しかし今回は違う。
偏屈爺さんの言葉は正しいのだ。
鮮魚をあつかうには、中崎屋は確かに縁起の悪い名前だったのだ。
(焼き魚の中崎屋)
やきざかなのなかざきや
この物語はフィクションです。
全世界の「中崎屋」さんとは無関係であります。




