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回文童話「ゴンザ」
ゴンザは体が大きく、髭モジャで、スキンヘッド。
「強面」を絵に描いたような男だ。
しかし、猫舌だった。
腰痛の母親の代わりに、今年初めて、町内の年末夜廻りに参加する大男ゴンザ。
集会所に姿を現わすと、ゴンザの異形に、それまでの談笑がピタリと止まった。
しかしそこは老獪な常連の老々男女。
すぐに、「なんでもない雰囲気」に持ってゆく。
「ああ、ヒサエさんの代わりにのう、それはご苦労さん」
「大きくなったのう、ゴンザくん」
「まあ、一杯おあがり」
と、熱々(あつあつ)の年越しソバを勧められた。
断る訳にはいかなかった。
皆、食べている。
「ありがとうございます」
神妙にソバを受け取るゴンザ。
受け取ったどんぶり鉢が、燃えるように熱く感じられる。
(なに、こんなものは気合いだ)
(心頭滅却すれば火もまた涼し、と言うではないか)
見た目のイメージを大切にしているゴンザは、豪快に、熱々ソバに喰らいついた。
そうして、豪快に跳び上がって熱がった。
そうして、気合いだけではどうにも出来ないモノを知った。
そうして、すっ跳びのゴンザ、と呼ばれるようになった。
(猫舌事故ね)
ねこじたじこね




