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回文童話「長く出来なかったお話」
その1「イケそうな話」
ハゲで悩んでいたパッパインさんは、朝食の漬け物を見て、ひらめいた。
「おっ。コレが良いんじゃないか? なあ、母さん。そう思わないか?」
パッパインさんは箸を置いた。
「さっそく試してみよう」
(奈良漬けヅラな) ならづけづらな
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その2「河原を歩く」
冬のよく晴れたある日、河原を歩いていた上田くんは、川を見て思わず叫んだ。
「あっ、中沢くんが寒中水泳してる!」
隣に並んで歩いていた松下くんは、
「違うよ。川魚だ。人面魚だよ」
と、冷静に応じた。
(川魚は中沢か)かわざかなはなかざわか
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その3「階段は登らない」
成仏できず、現世に化けて出たカイキチは、高層マンションの前に居た。
赤外線センサーを掻い潜り、オートロックをものともせず、玄関ロビーを横切ると、高速エレベーターに乗った。
九十九階に住む、自分を横領犯に仕立てた上司に、復讐するためである。
(怪談近代化) かいだんきんだいか




