回文童話「テレサさん」
テレサさんが買い物から帰って来ると、家の前で屋根を見上げ、腕を組んでいる人物がいた。
「あの、ウチの屋根が、どうかしましたか?」
と、つい、声をかけてしまうテレサさん。
「ああ、屋根瓦がズレているのが気になって」
と、その灰色の作業服の男は言った。
「えっ、そうなんですか?」と、テレサさん。
「ちょっと見るだけ見せてもらえませんか?。お金は要りませんから」
そこへ、紺のスーツの紳士が通りかかり、
「お前、何を言っているんだ!」
と、灰色の作業服の男に詰め寄った。
「な、なんなんだよ、お前は」
「屋根瓦がズレているだと? どれだ? 下から見て分かるのか?!」
「あのう、リフォームしてもらった業者さんに見てもらうというのは?」と、テレサさん。
「それがよろしい。詐欺ですよ、こいつ」
と、紳士が言った時には、灰色服の男はもう逃げ出していた。
「危ないところでしたね」
「ありがとうございました」深々と頭を下げるテレサさん。
「ああ、怒鳴ったら、喉が乾いちゃったな」
「あっ、気がつきませんで。ウチで飲み物でも」
「ありがとうございます。時に奥さん。もう使わなくなった貴金属とか、ありませんかねえ」
家に案内されながら、紳士は言うのだった。
(テレサまだ騙されて) てれさまだだまされて
家には病弱な祖父が居て、こんこん咳き込んで、紳士を撃退できたのは、奇跡的かも知れなかった。
(奇跡的咳) きせきてきせき
ウチには、もう長い年月でですが、三回くらい、
「屋根瓦がズレてますよ」
と、作業服の男に言われたことがある。
そのたびに、
「この家をリフォームした業者さんに見てもらいます」
と言って断った。
実際に一度、リフォーム業者の人に見てもらった。
「異常ありません」という話だった。
「絶対に、そういう人を屋根に上げてはいけません」
と、強い調子で言われた。
ご足労をおかけしてしまいました。タダだったし。




