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回文童話「観覧車」
ぼくは兄と、ひやかし半分で、人気の観覧車に乗りに来た。
「駄目だよ、宗派が違うのに、冷やかし半分で乗るなんて」
兄は土壇場になって尻込みをした。
「まあ見ててよ。論破して来るから」
結局、ぼくだけ観覧車に乗ることになった。
屁理屈には自信があったからだ。
「この観覧車かい? 浄土往生を説いているってのは」
ぼくが係員にそうたずねると、
「そういう噂で御座います」
という、神妙な声が返ってきた。
(なんだか抹香臭い係員だなあ)
そう思いながら、ぼくは観覧車に乗った。
観覧車は、ゆっくりと一周した。
観覧車との議論の時間は、充分にあった。
降りた時、ぼくはしっかりと改宗を決意していた。
(観覧車親鸞か) かんらんしゃ、しんらんか?
この物語はフィクションです。
実在した聖人、実在する宗派とは何の関係もありません。




