回文童話「三点セット」
「毎日毎日、あのオヤジの汚い歯を磨くのは、もう真っ平だ」
住民が寝た家の洗面所で、歯ブラシが言った。
「そうだそうだ、オレも真っ平だ」
と、歯ブラシを立てているコップが言った。
「ぼくだってイヤだよ」
コップの横で、チューブに入った練り歯磨き剤が言った。
日に日に痩せ細る練り歯磨き剤は、やがて捨てられるのを察知していたのだ。
「おいらたちは逃げるけど、お前は駄目だよ」
歯ブラシが練り歯磨き剤に言った。
「そうだよ。お前はあのオヤジが起きて来ないか見張ってなくちゃ」
当然、とばかりにコップが断言した。
「な、なんでだよ。ぼくらは三点セットの兄弟みたいなもんじゃないか」
練り歯磨き剤は、おろおろと言い返したが、歯ブラシとコップはさっさと家を出て行ってしまった。
(後をこっそり追おうか?!)
(それとも言われた通りに、オヤジを見張っていようか?!)
優柔不断な練り歯磨き剤は、身をよじっていつまでも思い悩んでいた。
(練り歯磨きが見張りね)
ねりはみがきが、みはりね!
回文童話「のほほん」とほほな最終日。
111話まであと2話。
次は、11時11分を狙って投稿予定。
(ヒマか?!)
(いや、それは言うな)
(そうだよ。創作意欲、っちゅーーヤツだよ)




