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第82話:アラキラの謀略

「さあかかっておいで。それともリライトがないと打つ手がないのかな?」

「それじゃあ、遠慮なくいかせてもらうぜ!」


 トルーニが顔の横できりきりと弦を引くと弓を飛ばす。

 放たれた矢は空を切りながら飛び、アラキラの脳天へと殺到する。


 が、


「何っ?!!」


 飛んで行ったはずの弓矢は何処かに吸い込まれたかのように空中で消え、細かい破片が紙吹雪のように舞う。


「見えない攻撃で迎撃された?それとも魔法の類か?!」

「【アシディティ=ユーモア】。どんなものでも溶かすことができる強力な体液を獲得するスキルで、あいつは自分の周囲に唾を噴霧することで不可視のバリアを作ってるんだよ。迂闊に懐に飛び込むと骨まで溶けちまうぜ?本当に面倒なスキルだよ」

「ちぇーっ。やっぱり一度戦ったことがある相手だと、手の内が見え見えで面白くないなー」


 唇を尖らせながら余裕たっぷりの様子だ。


「【鉄統鉄備(てっとうてつび)】は物理攻撃に対しては問題ないのだが、【アシディティ=ユーモア】のようなスキルに対しては無力でな。だから、残念ながら私はタンクをすることはできんのだ」

「つまり、遠距離のしかも魔法で攻撃するしかねぇってことか。だったら、あたしはデバッファーをやるぜ!」

「私も何処までできるかは分からんが【大地の剣技・真】でできるところまで応戦しよう」

「くれぐれも肉弾戦はするなよ?……リル。準備はできたか?」

「天使たちの悲哀よ。地上に住まう生き物たちを潤す源となれ!レイニーフィールド!」


 さあああ――――。

 空には不自然なほどに扁平に暗雲が広がり、雲からは天の恵みが静かに降り注いで地面を濡らす。


「……『レイニーフィールド』か。これを使ってアタシの唾を流そうっていうことだね?」

「さて、ここまではお前を斃した時と全く同じ試合運びだけど?わざわざ死後の世界から帰って来ておれたちに戦いを挑んだからには、何か策があるんだろうな?」

「全てが同じというわけではないじゃん?聖剣リライトがない部分は大きな違いでしょ?」


 フィールドをリセットする魔法に『クリアフィールド』という光属性の魔法があるのだが、アラキラが持つスキルは【ウロボロス】と【アシディティ=ユーモア】の二つ。【閃光の才】を持っていないアラキラには、そもそもフィールドの削除・上書きは不可能だ。


「あんたが体術で戦うのが得意なのは知っているし、【ウロボロス】で尻尾を咥えれば全回復できるのも知っている。だが霧のバリアがなくなった以上は弓矢が届く。さあ、そのまま額をぶち抜かれて死ね」

「このままではアタシが死んだあの時と一緒だねえ。あたしが何も対策できなければね!!」


 頭に装着されていたティアラが緑色の光を帯びる。

 途端、アラキラの周囲を謳うようにシルフが舞った。


()()()()()()()()()()【疾風の才】も持っていたのか?!」

「不正解。答えは後で教えてあげるよ。遍く吹き通る一陣の風よ。アタシを運べ!ワープ!」

「っ!させないぜ!!」


 龍人娘が矢を放つが何処かへと『ワープ』で消えた蛇型獣人の残滓(ざんし)を虚しく射抜いただけだった。


「何処かに逃げたか?」

「だが、自信満々に勝負を挑んでおきながら逃げるなどあり得るか?」

「そこだっ!」


 僅かな音を捉えた龍人の少女が矢を放つと、太い尻尾に弾かれた矢が明後日の方向へと飛ぶ。


「どう?驚いたでしょ?このティアラ。カロルから貰ったんだよ。確か、『天籟王(てんらいおう)の冠』とかいう遺物だったかなあ?」

「「『天籟王の冠』!?」」


 リルとエウロが呆気に取られた表情になる。


「風の精霊シルフたちを纏める精霊の長・天籟王ゲイルが装着しているという幻の冠……。伝説とも呼ばれるような遺物を、どうしてカロルが持っているんですか?!」

「それはアタシにも知らないよー。『ぜろすと教』とかいうものについても詳しく知っているみたいだし、永く生きていると珍しいコレクションとか知識の量とかが全然違ってくるんじゃないの?」


「そんなに凄い冠だったのかー。カロルの杖に嵌まっている『不変の宝珠』と何処か似てるよねー」と何処か呑気に笑う。


「矢は届きそうか?」

「届くには届くけど、屋根を遮蔽物にされると無理かもだな。(やじり)に【漆黒の剣技・神】の斬撃技を乗せて飛ばしてもいいならやるぜ?」

「私が許可しよう。アラキラを取り逃がすよりはましだからな」

「一応家主はおれなんだけどな!」

「弓矢とは面倒だねえ。ならこうしよう」


 ちろりと先の別れた舌を出すと魔法を詠唱する。


「山地にて旅人の生命を奪う水滴よ。アタシを(いしずえ)として天地を隠せ!フォグズフィールド!」


 魔法の詠唱が終わるとアラキラを中心として白い靄が発生。一瞬のうちに周囲を濃霧が包み込んで景色を隠す。


「随分とマイナーな魔法を使うな」


 天候が雨から霧へと変更された。

 ということは、【アシディティ=ユーモア】によるバリアが復活したうえに、この深い霧の中からアラキラが攻撃を仕掛けてくるということか。


「一か所に集まって背中を合わせろ。ここは無暗に動くのが一番危険だ」


 小さい王国であるとはいえ王城警備兵の兵隊長をやっていただけあって、ラウンの戦闘に関する知識は豊富だ。五人で背中を合わせて円を作り、あらゆる方向からの攻撃に警戒する。


「まさかアラキラがここまで強くなるとはな。一度勝った相手だからと少々邁進していたのかもしれん」

「このままじゃ防戦一方だぜ?あたしが【漆黒の剣技】を使って一か八かナイフで斬り込んでみようか?」

「今のあいつに近接戦は無理だ。『レイニーフィールド』でもう一度雨に変えられれば優勢、おれの『クリアフィールド』で天候を除去できればとんとんと言ったところだな」

「だとしたら、リルと僕が最優先で狙われるんじゃないかな?僕も【爆炎の才】があるから『サニーフィールド』で天気を晴れにできるしね」


 霧を張る魔法をわざわざ戦略に組み込んできたということは、そのことをアラキラが知らないはずがないだろう。


 フィールドリセットが可能な丸腰のレオルスを狙うか。

 それとも、天候を塗り替えられるリルかエウロを狙うか。


 隣に並ぶ仲間の横顔すら分からなくなってきた濃霧の中で、


「ぐっ!」


 苦しそうな呻き声と共に龍人娘の身体が「く」の字に折れる。


「くっ!裏を掛かれたか」

「せいかーい!当然この娘とラウンはノーマークになるよね。まずは見せしめといこうじゃないか」


 打撃を一撃加えて太い尻尾で華奢な身体を締め上げると、少女の身体からミシミシと嫌な音が鳴る。


「このまま絞め殺してあげるよ。君が何者かは知らないし恨みもないけど、ここで死んでもらうよ!!」

「あ……、たしに構うなっ……!まず……、は、『レイニーフィールド』をっ!!」


【アシディティ=ユーモア】によって張られた強酸の霧に身体が触れたことでアルプスの民族衣装のような服が少しずつ溶け、小麦色の綺麗な肌、丸くて小さいお尻や控えめな大きさをした胸が顕わになっていく。


 しかし、アラキラがトルーニに集中している以上魔法の詠唱が邪魔されないのは確かだ。


「天使たちの悲哀よ。地上に住まう生き物たちを潤す源となれ!レイニーフィールド!」


 まずは『レイニーフィールド』。強酸の霧を雨で落として霧散させ、


「返してもらうぜ」


 レオルスが得意とする『ワープ』による絶妙な移動でトルーニを奪還。アラキラの魔手から逃れる。


「ちぇーっ。この服気に入ってたのに残念だぜ」

「なっ、何でもいいから早く服を着ろ」

「ラウンって騎士の癖に初心(うぶ)だよなー。見られて恥ずかしい部分には鱗を付けているから大丈夫だぜ?」


「ほれほれー」と小さなお尻を動かしてラウンをからかいながら胸部と下腹部を隠すように生えている鱗を見せつける。


「そんなのは裸と同じではないかっ!女がするものではないぞ!!」


 どんなモンスターにも決して物怖じしなかった元王城警備兵兵隊長の男が、恥部を鱗で覆った龍人少女の裸を目の前にして敵前逃亡を図ろうとしていたところで、


「ちぇーっ。逃げられちゃったかあ」


 空洞となった蜷局(とぐろ)を残念そうに解きながらアラキラは呟く。

「なろう」にてブックマークが一件増えました!ブックマークしてくださった方ありがとうございます!!



 先日アニメ「プリンセスコネクト」を観ていたら、中世ヨーロッパっぽい世界観なのに冒頭から海苔付きおにぎりが出てきてビックリしました。


 少しインターネットで調べてみたら、


・おにぎり……言うまでもなく日本の食べ物。

・海苔……紀元前からイギリスの一部の地域で食べる風習があったものの、スープに入れたり肉料理に添えるもの。小麦を食べる文化なので、ご飯との食べ合わせはしない。


 だ、そうです。


 藤井はファンタジーの作品を作るのに際して、『日本っぽい要素』と『近代以降の文化』を極力排除することで『異世界らしさ』を演出しています。


 一方で「プリコネ」では中世ヨーロッパっぽい世界観でおにぎりと竹筒に入った飯盒炊飯が登場し、目玉焼きはサニーサイドアップしません。

 食べ物一つ一つの歴史とルーツを調べ、違和感のない世界観を作るように心掛けていた藤井の努力は一体何だったのか……。とふと考えさせられます。(「プリコネ」好きなお方は申し訳ございません……。)



 食文化にこだわるのなら、アニメ「ダイの大冒険」くらいこだわって欲しいですね。


 本稿を執筆するにあたって、『ファンタジー風世界観を作るにあたって、何処までの範囲の料理であれば見る側に違和感なく登場させられるのか』を調べるべく参考と勉強のために宴会のシーンを写真に撮って綿密に調べてみたんですが、


・食事形式が立食……中世より前。

・皿に盛られているのがパン・フルーツ・肉類……中世もしくはそれ以前。

・等分に切られた簡素なケーキ……木の実を塗り固めたようなケーキであれば古代からある。

・深い器に入ったカレーのような食品……カレーがヨーロッパに伝わるのは近世。

・サンドウィッチ……近世。(17世紀以降)

・ホットドッグ……近世。(18世紀以降)


 と、言った感じで、古代・中世・近世のものが混合していますが、『ヨーロッパっぽい世界観』に違和感を与えないようなパーツが揃えられています。さすが超大作ファンタジー!!と舌を巻いたものです。



 ……それとも、藤井が神経質になりすぎでしょうか?



 ではまた!これからもよろしくお願いします!!


 ……本稿を完結させたら一週間くらい休もうかと思っています。

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