第6話:【テイム】
「ところで【テイム】ってどんなスキルなの?」
アジ=ダハーカを仲間にするのであれば、まずは【テイム】について知っておきたい。この世界においての知恵袋・セレンに質問する。
「スキルについて詳しく知りたいのであれば、ステータス画面にあるスキル名の上に指を置けば表示されますよ」
早速右腕に装着したブレスレットに嵌められた魔証石をそっと触りステータスをオープン。
●名前……エリカ
●性別……女
●年齢……25歳
●種族……人間
●所属……なし
●役職……魔法使い
●スキル……【マジックマスター】(LSランク)、【テイム・神】(LSランク)
●レベル……100(LSランク)
●最大HP……13,875(LSランク)
●最大MP……5,616(LSランク)
●物理攻撃力……2,933(LSランク)
●魔法攻撃力……2,881(LSランク)
●物理防御力……2,892(LSランク)
●魔法防御力……2,916(LSランク)
●敏捷……1,755(LSランク)
●幸運……714(LSランク)
◇OP――――――――――
なし
◇バフ―――――――――――
なし
◇デバフ――――――――――
なし
◇状態異常―――――――――
なし
【テイム・神】と書かれたスキルの上に人差し指を置く。
【テイム・神】
動物やモンスターを仲間にできるスキル。
使用者の魔法攻撃力やMPではなく、その動物やモンスターと仲良くしたいと思う気持ちが強ければ強いほど成功率が高くなる。
「つまり、その動物を愛する気持ちが高ければ高いほど成功しやすい、ってことですね!動物園で勤務していた絵理華さんにはピッタリのスキルです!!」
「この【神】っていうのは何?ゼロスト様から授かったスキルだから付いてるの?」
「この世界におけるスキルの階級です。A~Cが無印、Sが【真】、SSが【極】、LSが【神】となっているんですよ」
「なるほど。だからLSランクの【テイム】が【神】になるってわけね。じゃあ、どうして【マジックマスター】は【神】じゃないの?」
「【マジックマスター】は非常に珍しいスキルであり、かつ、LSランクしか存在しないからです!この世界の永い歴史を見ても、指で数えられる程度しか確認されていないそうですよ!!」
「なぁ、嬢ちゃんたち。楽しく話すのはいいんだけどよ」
開店時間であるというのに閑古鳥が鳴いている店内で、カウンターに肘をつきながらガルシャが言葉を漏らす。
「もっとこう、作戦会議みたいなのはしなくていいのかよ?こんな魔法を使って攻撃を防御するとか、こんな魔法でCCを入れるとかさ」
「アジ=ダハーカって1,000種類以上の魔法を自在に使いこなせるそうじゃないですか?そんなモンスター相手に作戦を立てたところで上手くいくんですかね?」
「そういえば、「オレはアジ=ダハーカを倒すために来たんだ!」って豪語していたということは、ガルシャはアジ=ダハーカについて詳しいんだよね?」
女性二人の期待の籠った目線が一斉にカウンターに注がれる。
「何か弱点とかないんですか?」
「……火の神アータルに「お前の身体の中に入って燃え上がってやる!」って言われて、委縮して逃げたっていうエピソードならあるんだが、そいつは参考になりそうか?」
「仲間にするのが目的ですからねぇ。内側から燃やしちゃうのは残酷かと」
「それに、切り傷から血液の代わりに爬虫類とかが溢れ出てくるんでしょ?だったら、お腹の中も爬虫類だらけなのかな?」
「うげえ。それは気持ち悪いですね」と言おうとして絵理華を見ると、何だか瞳をキラキラさせていた。もしかして、彼女にとっての『動物』は哺乳類や鳥類に留まらず、爬虫類から深海生物までいけちゃうタイプなのか。
「ところで、アジ=ダハーカって世界の終末が訪れると目覚めるんですよね?だったら、今ここで作戦会議を立てたところで、実行に移すのは何年か後になってしまうんじゃないんですか?」
「それがだな――」
ガルシャが口を開こうとした直後だった。
「わわっ!地震ですか?!」
腹の底から体幹を揺さぶるような地響きが発生。壁に吊るされた調理器具が小刻みに揺れ、不気味な音を発生させる。
(震度で言うなら3か4くらいかな……?)
震度5弱程度の地震が起きても死者が出ない地震大国・日本で生活してきた絵理華にとって、この程度の揺れは大したことはない。振動によって蝶番や留め具が歪んで扉の開閉ができなくならないように、最も手近にある窓を手早く開けて机の下に滑り込む。
セレンが絵理華に倣って机の下に潜り込み、その動きに関心したガルシャも同じように机の下に隠れて揺れをやり過ごすと、少しの時間が経過した後に揺れは静まった。
「何だったんですか?今の揺れ??」
地震というのは、片方の大陸プレートが、もう片方のプレートの下に入り込んだり、上にのし上がったりすると発生する。
異世界の地底も同じような構造になっているのだろうか。
……という疑問も、ガルシャの一言で瓦解する。
「この感じ、ただ事じゃねぇな…………。もしかしたら、あいつが目覚めたのかもしれねぇ」
「あいつ?」
「決まってんだろ」
ことことと靴音を鳴らしながら厨房まで行くと、大振りの戦棍を握る。
「アジ=ダハーカが目覚めたんだよ」