第34話:どの依頼を受ける……?
どういう稼ぎ方をしているのかは分からないが、トールとロキが結構稼いでくれているらしく、動物たちの餌代は何とかなっているようだ。
そのため、絵理華たちは比較的新しいモンスター探しに専念することができる。
「さあ絵理華さん。次はどの依頼を受けます?」
場所はゴロド王国の首都ガオバーロ・南端外周広場。
北側にあるギルド案内所や城までは縦断しなければならないため非常に面倒だが、これも国を防衛するための規則であり、何よりドリード村からここまで歩くことを考えれば楽をしているのには違いないのだ。通行料を支払ってガオバーロに入り、北に向かって大通りを歩く。
「バジリスクとかカトブレパスみたいな、普通の動物っぽく見せかけたモンスターの方がいいのかな?それとも、アティアグみたいな一目でモンスターだって分かるようなモンスターの方がいいのかな?」
「バジリスクもカトブレパスも展示したら死人が出そうなので、展示には注意が必要そうですねー。アティアグは相当臭いですし」
「どっちも睨まれると死んだり石化しちゃったりするやつだよね?!ルナティちゃんまだまだ死にたくないぞ☆」
時間を見つけてスマートフォンでモンスターについていろいろ調べているうちに、随分とモンスターに詳しくなってしまったようだ。
「それよりも、エリポンは装備を作るために素材クエストに潜った方がいいんじゃない?仮にLSランクの仲間が四人揃って高難易度ダンジョンに潜れるようになったとしても、さすがに装備なしはマズいでしょ?」
「それもそうだね。で、その装備っていうのはどうやって作ればいいの?」
「……ルナティちゃんが言うのもアレだけど、装備なしでよくLSランクになれたねえ。300年間スライムだけ倒していたとか?」
「もはや縛りプレイですよねそれ」
頭頂部の耳がゆらゆらと動く。
「ルナティちゃんとエリポンたちが出逢ったのって、レオニエ王国のスロザード山脈だったじゃん?あそこには装身具を作るための『装身具の欠片』が時折落ちているんだけど、それをたくさん拾い集めて【鍛冶屋】スキルを持った人の所に持っていくんだよー。ちなみに、OPは装身具を作成した段階で決定するから、OPを厳選するんだったら何度も同じ装備を作るしかないね」
途方もなく大変な作業が待っていると思ったので一安心だ。
「じゃあ、ギルド案内所で依頼の内容を確認してから、もう一回スロザード山脈に行こっか。その『装身具の欠片』って、装備一つ作るのに、どれくらい集めればいいの?」
「鎧やローブみたいな防具から、指輪や髪飾りみたいな装飾品の類まで、一律で11パウンド(約5kg)くらいかなあ?」
「げ……、わたしの分まで装備を作ろうと思うと骨が折れそうですね」
ヤードポンド法で言われてもピンと来ないので首を傾げてしまう絵理華。
他愛のない会話をしているうちにギルド案内所に到着。三人で頭を並べて掲示板を閲覧し、受けられそうな依頼やスロザード山脈に関連する依頼がないか探す。
「一個もないね……」
やはり、同じことを考えている冒険者が多いのか、フリーダンジョンに設定されているような場所の依頼は軒並みなくなっていた。当然と言えば当然のことだが。
「グリフォン討滅作戦が見つかったのは奇跡的だったみたいだね」
「案外掲示されたばかりの依頼だったのかもしれませんよ?」
それどころかAランクの依頼もほとんどなくなっていた。
言うまでもなく、依頼のランクが高ければ高いほどもらえる報酬も多くなるのだが、冒険者だって人間だ。それなりの報酬を楽に手に入れようと思ったらAランクくらいがちょうどいいのだろう。
「おっ!ほら、左上の方にAランクの依頼見つけたよっ!他はこれしかないし、受けちゃおっか?」
詳細を読むことなくびりりと剥がした羊皮紙に目を通す。
「なになに?『ロマリア市街ウェアタイガー抹殺作戦』?うげえ!面倒臭いの取っちゃったあ!!」
「その依頼を受けるのですか?」
受付から職員のお姉さんが声を掛ける。
「ロマリアに潜伏しているという情報が入った、ウェアタイガーを倒す依頼です。少々大変でしょうが、頑張ってくださいね!」
「少々じゃなくない?!ロマリアにどれだけ人口がいると思ってんの?!」
ロマリアとは、大陸で最も栄えている王国・セトレイ王国の首都である。
一日で出入りする人の数や、この街に住む人の数がどれほど多いのかなど言うまでもない。
「でも見てくださいルナティさん。報酬欄に「『月虹装備の欠片』44パウンド|(約20kg)と2ペレル」って書いてありますよ?!Aランク帯の依頼にしては破格じゃないですかこれ?!」
『月虹装備』とは、LSランクに属する装備の一つで、四枠全てに『月虹装備』を装着することでステータスの数値やOPとは別にHP回復量を伸ばすことができる装備だ。つまり、この依頼を達成することができればOPは適当ではあるものの、『月虹装備』を一式揃えることが可能で、さらに報奨金として日本円相当で約5,000円が手に入ることになる。
――こう聞くと金額が少ないと思うかもしれないが、この世界と日本の物価は大きく違う。『アルミラージの集会所』で夕食を食べて一泊した時の二人分の代金が40ルーロ|(約1,000円)であることからすれば、如何に厚遇であるかが分かるだろう。
「こちらの依頼はセトレイ王国の国王様が直々にお達しをしたものですので、条件が難しい代わりに報酬が豪華になっております」
顔色一つ変えないまま職員の女性は説明する。
「どうします?受けちゃいます?」
「ルナティちゃんは賛成でーす!!依頼受けたいでーす!!」
「賛成も何も、一度剥がしたからには分不相応な依頼ではない限り、受けていただく規則になっているのですが……」
仮初ではあるが強力な装備が手に入り、お金も稼ぐことができ、新しいモンスターも仲間にできる。こんなに都合のいい依頼はなかなかないだろう。
依頼の詳細について記載された紙を受け取ると、転移魔方陣でロマリアの近郊まで『ワープ』で移動する。