第32話:OP
ブーッ――、ブーッ――。
スマートフォンの目覚ましに音楽を使っても良かったのだが、それだとその曲が嫌いになってしまいそうなので、代わりにスヌーズ音を使用。ごく普通の社会人のごく普通の起き方をして朝を迎えたのだが、
「ぬおおっ!!誰かがルナティちゃんの寝込みを襲おうとしているうっ!!ルナティちゃんの処女があっ!!」
異世界の利器に慣れていないルナティが兎のように跳ね起きたので、同じ部屋で微睡んでいた二人も慌てて起き上がる。
「ダメっ!!乙女が無防備な寝込みを襲うのはダメっ!!まだ心の準備ができていないのおう!!!」
「スマートフォンを使った、ただの目覚ましだよ……?」
「すまあとふぉん?メザマシ??」
季節によっては太陽が沈み切らない18時頃には床に就き、太陽の光と共に早朝に目覚める中世の人々にとっては想像も着かないシステムだ。マイクの代わりのような武器を握り締めた獣人少女が目を白黒させる。
「絵理華さんがいた世界ではほとんどの人が持っているアイテムです。分からないものを調べたり、遠くの人と連絡を取り合ったり、いろいろなものを記憶したりできるんですよ!」
「便利なアイテムだねえ!もしかして、ルナティちゃんのコレと似てる?」
大きめな胸の前で大事そうに抱えていたスタンドマイクのような杖を見せる。
「この杖には、水晶部分に『スピーカー』っていう風属性の魔法がエンチャントされていて、ルナティちゃんのかわいいかわいい声を大きくすることができるんだよっ☆」
「あれ?でも、ルナティが持っているスキルは【爆炎の才】だから、風属性の魔法は使えないよね?」
スキルには、火・水・土・風・光・闇の六つの属性があり、その六つの属性の斬撃、もしくは魔法を可能とするスキルがある。
ルナティが持っているスキルは【爆炎の才】なので、使用可能な属性は火・攻撃タイプは魔法である。
ちなみに、火属性の斬撃スキルを使えるスキルであれば、【爆炎の剣技】となる。
「ルーンがエンチャントされているのであれば、その属性の魔法を使うことができなくても、ルーンに込められた魔法の恩恵を受けることができるんですよー」
「ちょっと拝借」と言いながらマイク(仮)を借りると、水晶部分を見つめる。
「なるほど……。『贈り物のルーン』に『スピーカー』をエンチャントしているんですね。なかなか考えられています」
「ルナティちゃんのお友達が発明してくれたんだぞっ☆。凄いでしょー」
我が事のように顔を綻ばせて喜ぶ。
「だったら、普通の剣にルーンをエンチャントして、超強力な武器にしたりもできるってこと?何だか面白そうだね!!」
「理論上可能ではあるんですが、ルーンに魔法をエンチャントできるほどの技術や魔力を持っている人って滅多にいないですし、強力なルーンがエンチャントされた、いわゆる魔法剣と言われるような武器は高額だったり、ランクの高いダンジョンに潜らないと手に入らなかったりしますね」
「拡声杖メロディアを作ってもらった時にルナティちゃんも同じようなことを言ってみたけど、ルーンで魔法がエンチャントされている武器は、常にその魔法による負荷が掛かっている状態になるから、武器や物質にエンチャントできる魔法は一つが限界なんだって。それ以上は負荷によって物体が壊れちゃうらしいよ」
炎を纏っていて、斬った相手を凍らせて、風のように飛んでいく剣を想像していたが、どうにもそういう武器は作れないらしい。
「それこそ、LSランクの【鍛冶屋】スキルとかで作った武器とか、現在は失われた古代の技術で作った武器であれば耐えられるかもしれませんが、ランクの高い【鍛冶屋】スキルを持っている人も少ないですし、珍しい武器とかもそう簡単に見つかるものではありませんからねえ」
「あ、そうだ。武器で思い出したんだけどさ」
魔証石を撫でてステータスウインドウを表示しながら絵理華は言葉を続ける。
「このOPって何?アニメのオープニングのことではないのは分かるんだけどさ」
「これですか?「選択する」を意味する英語・「OPtion」から頭文字を取ったもので、装備を装着したことで得られる補助効果のことですね」
ぎしり、とベッドに尻を沈めながら女神が金色の髪を揺らす。
「冒険者はそれぞれ、防具・装身具・装飾品Ⅰ枠・装飾品Ⅱ枠の四つの装備枠があって、装備を装着することができるんですよ。……ルナティさん。ちょっとステータス画面から装備を呼び出してもらってもいいでしょうか?」
「あいあーい」
ステータス画面を呼び出すと、
●名前……ルナティ
●性別……女
●年齢……非公開
●種族……獣人(兎型)
●所属……なし
●役職……なし
●スキル……【爆炎の才・真】|(SSランク)、【女神の天啓・神】|(LSランク)
●レベル……92|(LSランク)
●最大HP……12,235|(LSランク)
●最大MP……5,436|(LSランク)
●物理攻撃力……1,009|(Aランク)
●魔法攻撃力……2,271|(SSランク)
●物理防御力……2,356|(SSランク)
●魔法防御力……2,318|(SSランク)
●敏捷……1,055|(Sランク)
●幸運……140|(Bランク)
◇OP――――――――――――
●自動HP回復+2%
●自動HP回復+2%
●自動MP回復+2%
●自動MP回復+2%
◇バフ―――――――――――
なし
◇デバフ――――――――――
なし
◇状態異常―――――――――
なし
自身の名前が書かれた部分を指で押す。
すると、新しいウインドウが呼び出された。
●ルナティ
●武器……拡声杖メロディア
●防具……シルクのプールポワン(Aランク)
●装備……シルクのコルセットスカート(Aランク)
●装飾品Ⅰ……真鍮の指輪(Aランク)
●装飾品Ⅱ……真鍮の髪飾り(Aランク)
●遺物……なし
「こんな感じで装備が一覧になって表示されるんですが、その中でシルクのプールポワンの上に指を置いてくれませんか?」
「……こう?」
ベッドの上で色っぽく身体をくねらせながら、膨らんだ胸の上に指を置く。
「ルナティちゃんのおっぱいが見たいの?セレセレのえっち♡」
「……ぶん殴りますよ?」
「怖いって冗談だって!!ルナティちゃん痛いのは嫌なの!!」
装備一覧に表示された「シルクのプールポワン」の文字の上に指を乗せる。
●ルナティ
●武器……拡声杖メロディア
●防具……シルクのプールポワン(Aランク)
〈補助効果:自動HP回復2%〉
●装備……シルクのコルセットスカート(Aランク)
●装飾品Ⅰ……真鍮の指輪(Aランク)
●装飾品Ⅱ……真鍮の髪飾り(Aランク)
●遺物……なし
「あっ、ルナティのステータス一覧にある補助効果だ」
「このように、装備それぞれにはOPが付与されていて、ステータスにはない数値を底上げすることができるんですよ!」
「Bランク以上の装備ならOPがあって、装備のランクが高ければ高いほど上昇値も大きくなるんだけど、ルナティちゃんはずっと単騎でダンジョンに潜ってたからねえ。大した装備が準備できていないのだよ」
となると、セレンのレベル上げとLSランクの仲間をもう一人作って、LSランクの冒険者で四人パーティを作成するのが目標か。
「そういえばルナティさんは、どうしてギルドに属していないんですか?LSランクなんですから、むしろ入れないギルドの方が少ないと思うんですが?」
「いやあ、何処かに所属していると肩身が狭そうでさ、男を漁りに行けなそうじゃない?ルナティちゃんは何処までも自由なのだ!」
優しく指輪の魔証石を撫でてステータスウインドウを消すと、
「エリカ殿。動物たちに餌を与える時間ですぞ」
ノックの音と共に扉の向こうからテュールの声が聞こえる。
「はーい。もう少ししたら行くから待っててね~」
冒険者としてだけではなく、動物園の園長としての雑務もやらなければならない。
寝巻から着替えてルナティを連れ出すと動物園へと向かう。




