第27話:『スロザード山脈グリフォン討滅作戦』
モンスターを倒すことを目的とした依頼には、『討伐』・『討滅』・『殲滅』の三種類がある。
『討伐』と記載されている場合は、その対象となっているモンスターを追い出す、または殲滅することで依頼達成とし、最低限追い出すことができれば達成とされるもの。
『討滅』と記載されているものは、『討伐』とほぼ条件が同じだが、なるべくならば殲滅することが推奨されるもの。
そして『殲滅』は対象となるモンスターを殲滅・駆逐することで依頼達成となるものを指す。『殲滅』は主として、モンスターの巣を壊滅させることを旨とした依頼に付与されることが多い。
ちなみに、群れに対して使われる時は『殲滅』。一個体に対して使われる時は『抹殺』となる。
「『スロザード山脈グリフォン討滅作戦』ということは、グリフォンを追い出すか殺せば達成されるんだよね?」
「でも絵理華さんはグリフォンを殺しませんよね?」
「勿論。【テイム】で仲間にするよっ!!」
依頼内容を見ると、グリフォンたちが鉱石を守るように空を徘徊しているため、作業者たちが鉱山に入山できないのだという。
追い出すか殲滅することによってグリフォンが鉱山関係者を襲わない状況を作ればいいため、【テイム】で仲間にして連れ帰るのも問題はない。
「それにしても、鉱山で働く人々が迂闊に出入りできない状態になっているにしては、随分と人が多いような……?」
「スロザード山脈はフリーダンジョンに設定されていますからね。すれ違う人たちはほとんどが冒険者だと思います」
「フリーダンジョン?」
「装備や武器を作成するのに必要な素材が採れる山や、HP、MPを回復できる木の実などが手に入る森などはフリーダンジョンといって、依頼を受けていない状態でも自由に出入りすることができるんですよ!」
「まあ、スロザード山脈は危険度がAランクに設定されていて、単騎であるならば冒険者ランクがSSランク以上ないと推奨されていないので、仮にモンスターに襲撃されて死亡したとしても自己責任ですが」と付け足す。
「急がないと私たち以外の人がグリフォンを倒しちゃう可能性もあるってこと?」
「そういうややこしいことにならないように、素材収集を目的に潜る時はモンスターの殺傷を原則してはいけないようなので、大丈夫だとは思いますけどねー」
この世界はゲームのようであってゲームではない。
魔証石を触れば空中にステータスが表示されたり、グリフォンなどのファンタジックな生き物が生息していたり、剣やら魔法やらスキルやらもあるようだが、モンスターを倒したところで肉や体毛が素材に変換されたり、硬貨やアイテムをドロップしたり、拾ったアイテムをアイテムボックスに自由に詰め込めるようなこともない。
間隔としては、ゲームっぽい要素を盛り込んだ現実、と表現した方が正しいのかもしれない。
「RPGとは違ってモンスターを倒してもアイテムやお金が手に入らないので、冒険者たちは不必要にモンスターを殺す意味がないんですよね。なので、グリフォンが強い冒険者に攻撃を襲撃して返り討ちに遭った、なんてことがなければ問題ないと思います」
セレンからあれこれと説明を受けながら山の麓を歩く。
この山は標高が高くなればなるほど珍しい素材がドロップするのだが、その分生息するモンスターも強くなるそうで、麓に生息するモンスターはAランク程度、山頂付近に生息するモンスターはLSランク相当なのだという。絵理華が目的とするグリフォンはAランクの依頼なので、上に登ることなく山裾を縫うように移動することになる。
そのため、
「つまんないね……」
「我慢してくださいよ……」
折角標高の高い山に来たにもかかわらず、トンネルを冒険するわけでも、山の景色を堪能するわけでもない。左右を森に囲まれた炭鉱で働く関係者用の道を進んでいるだけなため、どちらかと言えば山よりも森を進んでいる感覚だ。
「こう景色が変わらないのも面白味がないよね。早く目的地まで着かないかな?」
「なんで転移魔方陣が少し遠い場所に設置されているんでしょうね?不便ですよねこれ」
「『フライ』で飛んじゃう?」
「それでもいいですよね……」
「お、お助けを…………っ!!」
……セレンが叫んだのではない。
真っすぐと伸びた道の少し先。
道の脇に生えた背の高い草の中から長い耳の先だけが出ており、ゆらゆらと揺れている。声の主はあの耳のようだ。
「こっ!このままでは…………」
萎れた声を出しているところからすると、モンスターに襲われて怪我でもしているのだろうか。
「何事でしょう?!」
「兎の耳に見えるけど?とりあえず行ってみようか!!」
急を要するのには変わりはないようだ。歩を速めて兎の耳へと近づく。
「どうしたんですか?!」
「あぁあ!助けてくださいましい!!このままでは力尽きてしまうかもっ!!」
……と、言っても、草むらから見えているのは横倒しになった兎の耳だけ。
「あの、一体どうやって助ければいいのでしょうか?」
「ひ、引っ張り出してえぇ…………」
ざふっ!!
瀕死の割には元気に伸びた右腕が背の高い雑草を突き抜けて出現する。
「どうします絵理華さん?モンスターの罠の可能性もあるかもしれませんよ?」
「そうだとしても、困っているみたいだから助けてあげないと」
「……男いないの?さっきから女の子の声しか聞こえないけど?」
伸びた手の動きがぴたりと止まる。
「やっぱりそうですよ絵理華さん!男を目当てに人を勾引かすなんて、サキュバスかドライアドの類に違いありません!モンスターとの戦闘に備えて警戒してください!!」
「もしそこら辺のモンスターだとしたら、こんな回りくどい引っ掛け方するかな?もっと魔法とか使わない?」
「…………」
「だったら、変身能力を持った低級妖精の可能性もあるかも?」
「妖精!?妖精だったら【テイム】したいなー」
「男はいないのかああぁああぁぁあーーーーー!!!うがああぁぁああああーーーーーーっっっ!!!!」
がさがさばさっ!!
頭の上から木の葉を何枚も落としながら、痺れを切らしたウサ耳の女性が姿を現した。