第19話:食糧不足問題
「まずは、それぞれの役割分担を決めようか」
翌日、睡眠と飯とちょっとのお酒で元気になった絵理華が全員を招集して指揮を執る。
「まずはテュール。テュールは他の神様たちが怖気づく中、フェンリルに餌をやっていたんだよね?じゃあ、動物の餌やり担当はテュールにしようかな」
「はっはっは。ベヒモスだか何だか知らんけど、他の宗教からも神獣が来ているのだろう?どんなモンスターだろうが、このテュールがしっかりと餌を与えようではないか!」
肩を揺らして朗らかに笑う。
「ヴィーザルは大人しそうだから、園内に入る人の整理やモギリ、監視をしてもらおうかな」
「……任せろ。この腕と脚で何人でも止めてみせよう」
「不審者に対してはそれでいいけど、お客さんはちゃんと園内に入れてあげてね……?」
兜に隠れた頭を静かに縦に動かす。
「トールとロキには動物園の宣伝のために街に出てもらおうかな。広告とかはまだ作ってないからアレだけど、動物園と『アルミラージの集会所』の宣伝をしてほしいんだ」
「客寄せをすればいいんだな?任せろ!!」
「トールくんが行くんだったら、俺も行くしかないね」
べったりくっついた黒い道化を嫌がるような素振りもなく、自信満々に胸を叩く。
「では、僕は何をすればいいのかな?」
名前を呼ばれていない白を基調とした服装の男が帽子を揺らしながら見つめる。
「ヘイムダルには、経理とガルシャの手伝いをしてほしいんだ。入園者が増えて人も多くなるだろうから、宿も大変になるだろうし」
「おいおいおいおい。冗談はよしてくれよ」
さらさらとした髪を靡かせながら物申す。
「なんで僕がそんな仕事をしなくてはならないんだい?みんなを代表してやらなければならない仕事とかがあるはずだろう?」
「よく考えてください。ヘイムダルさん」
北欧神話の神々に囲まれてびくびくしている無名宗派の女神が恐れ多そうに口を開く。
「他の神様たちにベッドメイキングや洗濯、料理を運んだりできると思いますか?」
持った料理を怪力で握り潰すヴィーザル。
がさつな調理方法で味をめちゃくちゃにするテュール。
素早く運ぼうとして雷と風で宿をボロボロにするトールと、それを称賛するロキ。
「……分かった、僕が引き受けよう」
他の神が接客をした時や厨房に立った時のifを想像しながら、不承不承承諾したのだった。
「それはいいんだけどよ。食料はどうすんだよ?さすがに、お前たちを満足に食わしてやるほどの食料はないぜ?」
相変わらず店内には誰も客がいないので、料理の仕込みや開店準備を終えて暇を持て余したガルシャが口を挟む。
「それは全部オレ様が解決してやる!ちょっと全員で動物園の方に来い!」
何か策があるらしい。
念のためヴィーザルとテュールをエントランスに残し、ぞろぞろと園内に移動する。
と、アルミラージが展示されているスペースにいつの間にか山羊が二頭入れられていた。
「こいつはタングリスニとタングニョースト。オレの戦車を曳いていた山羊だ」
――形跡があった。
というのも。
「食われちゃってるよ?!」
アルミラージはとても狂暴な肉食モンスターであり大食い。
二頭の山羊はルミ子に食い殺され、何ともグロテスクな状況になっていた。
「ありゃりゃ。肉食なのかコイツ!?かわいらしい見た目の癖に恐ろしいモンスターだな!!ま、ちょうどいいか!!」
満腹になったのか、口の周りを血まみれにしながらまったりしているルミ子が頭の上に「?」を浮かべる中、柵を超えて中に入る。
「なっ、何が始まるの?」
「まあ見ててよ」
ロキが楽しそうに見送る。
「随分と盛大にやってくれたもんだな!!一応オレ様のかわいいペットなんだからさ、もっと大切にしてほしいもんだ。別の場所で飼わなきゃだな」
ぶつぶつと文句を言いながらも鉄製の専用手袋を装着。腰に着けていたミョルニルのサイズを少し大きくすると、血肉や毛の塊が汚くこびり付いた山羊の骨を軽く叩く。
一か所に固まっていた山羊の骨はミョルニルの持つ熱を受け取ると発火し、天高く火柱を挙げる。
「火葬してあげるってこと?」
日本で生活してきた絵理華は、ついこう思ってしまうが、北欧の国々はほぼ十字教のルター派。十字教では死者が生き返るためには魂を入れる器である肉体が必要とされており、火葬よりも土葬が主流である。現在はそうでもないようだが、中世ヨーロッパ並みの生活水準であるならば、そもそも土葬という発想はない。
火の勢いは激しく、想像以上に高い火柱となっているが、そこはカミサマパワーが働いているのか、草原や周囲の樹々に延焼するようなことはなく、山羊の遺骸だけを包み込んで燃やす。
炎の勢いも酣を過ぎ、1.64フィート|(約5m)ほどの高さがあった炎が消え始めた時、
「メエエエエエ…………」
炎の中から二頭の山羊が姿を現し、草地の上に転がっていた骨は消えていた。
「……どゆこと???」
「タングリスニとタングニョーストは天界の特別な山羊でな。骨さえ残っていればオレ様のミョルニルで何度でも復活させることができるんだよ。だから、何度肉を食っても大丈夫だぜ?」
「実際、オレ様は腹拵えに何度も食ってるしな!!」と付け加えながら山羊の頭を撫でると、それに応えるかのように気持ちよさそうに目を細める。
「何度でも食肉にできる……、だと…………?」
そんな情報を聞いて食いつかないはずがないのが、宿屋で毎日食事を提供している男・ガルシャだ。
「これで食肉には困らないじゃねぇか!!いやあ、頼れる仲間が加わったものだなあ!!」
「君、最初は僕たちのことを追い出そうとしていたよね……」
ガルシャの態度の変わりっぷりに呆れながらヘイムダルが息を吐く。
「ということは、もしかして生乳も搾り放題か?!これならミルクやチーズにも困らないぜ!!」
「おん?それは無理だな?」
がっしりと手を握られてぶんぶんと揺すられながら、トールはけろりと答える。
「タングリスニもタングニョーストもオスだからな。残念ながら乳は出ないぜ?」
「……そいつは残念だな。でも食料には困らなくなったし、新たに山羊の肉を使った料理も作れるようになったってことか!だったら、オレもじっとしちゃいられねぇ!!山羊料理をいろいろと研究してみねぇとな!!」
ふん、と勢いよく鼻息を出すと、何事もなかったかのように草を食む山羊を見る。




