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第17話:光の神と闇の巨人

「な……、何あれ…………??」


 あれ?

 確か、光の神ヘイムダルとロキの戦いを止めに来たはずなのだが?


 アース神族やモンスターたちまでもが啞然とする中、セレンは口を開く。


「女神フレイヤが持っていた首飾りをロキが盗み出した時、ロキは様々な動物に変身しながらヘイムダルと対決。最終的にはアザラシに変身したロキが同じくアザラシに変身したヘイムダルと戦い、ロキが敗北しているそうなんです」

「つまり、その時の汚名を返上するために、ロキはあえてアザラシの姿で戦っているというわけか。なかなかに見上げた武人だな」


 何処か納得したかのように頷く隻腕の軍神。


「……というわけで絵理華(えりか)さんっ!ヘイムダルとロキを【テイム】しちゃってください!!」

「え゛っ!!?さっきの話を聞いていると、どっちも動物に変身しているってことだよね?!元々が人間なら【テイム】できないんじゃないの?」

「ご安心ください!」


 ビシッと自信満々に親指を立てる。


「ロキは人間の男性の姿をしていますが、雌の馬に変身して雄の馬のスヴァジルファリと目合(まぐわ)ってスレイプニルという八本脚の馬を産んだり、巨人族の娘・アングルボザと目合ってヨルムンガルド・フェンリル・冥界の女神ヘルを産んでいます!どっちかと言えば、本質はモンスターに近いはずなので、【テイム】でバッチリいけると思います!!」

「……じゃあ、ヘイムダルの方はどうすんの?」

「とりあえずロキを【テイム】してみましょう!!ダメだったらヘイムダルを説得するだけです!!」

「気安く言ってくれるなあ!!」


 とにかく、見つめているだけでは何も進まないので『フライ』を使って飛翔。一日で知らず知らずのうちに魔法が上達していくことに泣きそうになりながらも二匹のアザラシがいる場所を目指す。


「それにしても君も物好きだなぁ。あの時の姿で再び僕に負けたいなんてね」

「何を言う?あの時お前が勝った時の姿で負かし、最高の屈辱を味わわせてやることに意味があるのだよ!ただ勝つだけではつまらないだろう?」

「ほう。光の神である僕に勝つ気でいると?威勢がいいねえ!!」

(えっと……、「僕に負けたい」ということは、あっちがヘイムダルであっちがロキかな?)


 どちらも鏡写しのように瓜二つな姿をしていて見分けがつかないため、会話の内容から推測すると、向かって左側がヘイムダルで右側がロキのようだ。

 右側のアザラシの側面へと飛んで【テイム】を唱える。


 そして、


「初めましてヘイムダルさん」


 堂々とロキの前で背中を見せながら、アザラシの姿となった光の男神と対峙する。


「私の名前は絵理華。このラグナロクを止めに来たの」

「……面白いことを言うね。君」


 白い煙を挙げて白装束の貴族のような姿になりながら、悠長な言葉で会話を続ける。


「ラグナロクとは、僕たち神族が巨人族を殲滅するための戦いなんだよ?それを止めろなんて誰の権限で言っているんだい?」

「そうさ」


 黒い煙を挙げて黒装束の道化のような姿になりながら、怒りの籠った言葉をぶつける。


「俺はこの男に個人的な恨みがあってね。その復讐が今果たせるところなんだ。私情(わたくしごと)に首を突っ込まないでもらおうか!!」

「残念だな。こちら側にはトールもいるというのに」


 この一言を聞いた途端、凄い速さでロキの瞳がテュールに向けられる。


「彼奴はスルトを倒しに向かっていて今はいないが、もし戦うのを止めてこちら側の軍勢に大人しく加わってくれれば、戦いから戻ってきたトールを好きにしてもいいのだがな?」

「…………それは本当か?テュール??」


 マジの目をしていた。

 敵前だというのにその目はテュールに向けられたまま動かない。


「あぁ、本当だ。何なら、平和になった世界でトールと仲良く観光にでも行くがいい!」

「トールくんトールくんトールくんトールくんトールくんトールくんトールくんトールくんトールくんトールくんトールくんトールくんトールくんトールくううううぅぅぅううううううううぅぅぅぅううううううううんんんん!!!!!」

「何がどうなっちゃったの?!!」


 会社から帰ってきた飼い主に尻尾を振る犬のようにそわそわし始めたロキを見て、ヘイムダルは重い息を吐く。


「ロキ君は僕たちと敵対関係にある巨人族の生まれではあるんだけど、オーディン様の義兄弟でもあって、トール君を我が子のようにかわいがっていてね。巨人の国(ヨトゥンヘイム)にあるウートガルザ=ロキが治める都市・ウートガルをトール君と一緒に旅したこともあったんだよ」

「随分と仲がいいんだね……」

「逆に言うと、彼は少し風変わりな所があるから、トール君くらいしか友達ができなかったんじゃないの?だから、こんな風にトール君に対してべったべたというわけさ」


 神々が宴をする中にわざわざ出現し、それぞれの神が持つ恥ずかしいエピソードを大声で暴露した過去があることから人からも分かるように、お世辞にも他人から好かれるような性格とは言い難い。何だか頷いてしまう絵理華。


「……あーあ。興が醒めちゃったよ。折角ギャラルホルンを美しく吹き鳴らしたのに、こんなにあっさり終わっちゃうなんてねえ」


 手中で精緻な装飾が施された角笛を弄ぶ。


「やめだやめ。僕はこんなやつを倒すために鍛えていたかと思うと、何だか悲しくなってくるよ」


 肩を竦めて物憂げな表情をしていると、


「うおおっ!!」

「……派手にやっているな」


 大きな雷が落ちたかのような衝撃。

 後方から大地を揺るがすほどの大音が響く。


 その音の正体は、この男の反応ですぐに判明した。


「トールくん?!あの音はトールくんのミョルニルだよね?!!うおおぉお!!!今すぐ向かうからねトールくんっ!!」


 動物の姿に変わるようなこともなく、黒を基調とした服を纏った道化がどしどしと足音を鳴らしながら走り去っていった。


『……おい生娘。お前の【テイム】の力で止めなくてもいいのか?』

「悪いことをする気配はなさそうだし、まぁいいんじゃない?」

『随分と扱いがぞんざいになってきているな……』

「これだけのモンスターがいるんだから仕方がないでしょ?なかなか平等に愛するのは難しいんだよ」


 ばさばさと翼の音を鳴らしながら、空中に浮かぶ黒い龍は道化の背中を見送る。

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