第117話:ゼロストVS『紅蓮と白銀の騎士』【1】
「はっはっは!妙齢のご老人だというのに随分と元気だねえ!!」
場所はセトレイ王国の首都ロマリア。
大陸で最も美しいと称された街の景観は破壊され、蜘蛛の子を散らすように群衆が逃げ惑う。
「何者かは分かんないけどさ、覚悟はできているんだよね?」
怒りの籠った表情を浮かべながら『紅蓮の魔女』は『白銀の騎士』の隣へと並ぶ。
「お主らは確か、『紅蓮と白銀の騎士』だったかのう。何の用じゃ?」
「ここがセトレイ王国の心臓部だと知っていて暴れている度胸者か、知らずに暴れている愚か者か。どっちだい?」
「言うまでもないじゃろう?前者じゃよ」
「……なるほど。後者なら赦してやらんでもないと思っていたけど、遠慮はいらないようだね」
大陸の心臓部である大都市の防衛を任されている都合上、大陸を自由に動き回ることが許されなかったが、もし旅をしていたら『煌々たる裁きの剣』に代わって魔王を斃していただろう、と称されるほどの屈指の強豪ギルド・『紅蓮と白銀の騎士』が配置につく。
タンクのテリーナとサブディーラーのサラが前衛に。
ヒーラーのルティアが中衛に。
DDのクリムが後衛に。
タンク1、DD1、サブディーラー1、ヒーラー1の教科書とも言えるようなバランスのいいパーティだ。
「一応忠告しておいてやるかの」
世界規模で数えても上から数えた方が早いほどに強いパーティに対して『忠告』とはどういう了見だ。
最前衛でテリーナが眉根を寄せる中でゼロストは語る。
「ワシはある宗教において主神を務める神での。お主らのような虫けらどもが勝てる相手ではない。ここで引き下がれば見逃してやらんでもないがどうするかの?」
「ふっ。何を言っているんだい?」
巨大な盾を突き立てる。
「相手が神だろうと魔王軍だろうと蛮族だろうとモンスターだろうと関係ない。この国の住民たちを苦しめるような不届き者には容赦はしない。ただそれだけさ」
「なるほど。つまり神に挑むというのかのう?」
「あんたが何者かは分かんないけどさ」
遥か後方で生意気に目を細めながら赤装束の少女は口を開く。
「こんなことをやるような宗教の神様ってことは、大した宗教じゃないんでしょ?何ができるのあんた?それとも災厄神ロンザストみたいに、ただ無差別に災厄を撒き散らして迷惑掛けるだけとか?」
「……言いおったな小娘。ならばその身を以って知るがいい!ゼロスト教の主神が何者かであるかをな!!」
「構えろ!!相手は何をしてくるのか分からんぞ!!」
テリーナが注意を促したことで一気にぴりりと張った空気になり身が引き締まったが、
「…………」
先ほどの掛け合いとは裏腹に静かな空気が流れる。
相手は神を名乗る身。LSランク級のモンスターとは比にならない強さであることは体感で分かっている。だからこそ普段通りの動きが通じないことも分かっている。
このまま前線を上げて突撃してもいいのか。それとも後続を守るために一歩引いた場所で様子を見るべきなのか。
それすらも答えが出せずに踏み留まる。
いや、こういう時こそ。
こういう時だからこそ自分が率先して高火力の魔法を撃って、パーティをリードしなければいけないのだ。
「熱き無象を風の刃で刻みて魂の宿った彫像とせよ!ファイヤーデビル!」
クリムが詠唱を終えると『紅蓮の魔女』の二つ名を示すかのようにゼロストを炎の竜巻が囲い込んで激しく燃える。
ファイヤーデビルとは、山火事や火災の際に発生する自然現象だ。
燃える炎が様々な方向から吹き込む風によって回転して渦を生成し、竜巻のように激しく天高く伸びるのである。
ちなみに「デビル」と入っているが闇属性は含まれておらず、あくまで「激しく燃える様子が荒々しくて悪魔的である」ということに由来する。
ズゴゴゴゴゴゴゴゴォォォォ!!!!!!!
激しく流れる洪水のような音を轟かせながら炎は渦を巻き、ゼロストを中へと完全に引き摺り込む。
が、
「そんなものは効かぬ。いや、効かないようにしてあると言った方が正しいかのう?」
ゼロストの周囲に透明なバリアのようなものが出現。『ファイヤーデビル』をあっさりと霧散させ、涼しい顔をしながら杖を突いて歩く。
「魔法が効かない?!」
「なら私が!テリーナさん。援護お願いします!!」
魔法がダメなら物理で仕掛けるしかない。
LSランクの脚力を活かしてサラが懐へと一瞬で到達すると、持っている右手の短剣が緑色に、左手の短剣が青色の光を帯びる。
「昊潺の舞!!」
風属性の斬撃を滑らかに。
水属性の斬撃を力強く。
そして、時にはそれぞれの流れを逆に。
風と水の似て非なる二種類の斬撃を交互に放ち、二本の短剣を駆使して隙のない攻撃を仕掛ける。
美しく舞うような所作で繰り出される連撃を受けた相手は、生きたままに革を剥がれて肉を削ぎ落とされ、立ったまま絶命するのだが、目の前の老人は構えることもなく涼しい顔で猛攻をバリアで受け止める。
それどころか、
「くっ!」
地面から牙のように尖った岩塊が出現。攻撃を途中で切り上げ、身を捻って回避する。
「『グラウンドホルン』?!何も唱えていないように見えましたが?!!」
「お主たちが魔法と言っているものには近いかも知れぬが、これは魔法ではない。カミサマパワーと言って、神の力によって魔法以上の威力を持った力を詠唱することなく何度でも出すことができるのじゃよ。お主らと違っての。じゃから、魔法を防ぐ『マジックバリア』のような魔法を使ったところで難なく貫通できるぞ?」
となると、こちらの攻撃を防ぐバリアのようなものも『第三の力』なのだろう。テリーナは牙噛む。
「つまり、あんたは魔法以上の威力がある力を無条件で好きなだけ使えるのに、私たちはダメージを与えることすらできないってことかい?神様の癖に卑怯なもんだね。弓を番えてドラゴンと戦うようなものじゃないか?」
「いくらでも言うがいい。元々公平なバトルなどする気などなかったからのう。こちらが一方的に嬲り殺してやるわい!!」
ゼロストが熱り立った瞬間、石畳みを突き破って地面が大きく隆起する。
「っ!!これはっ!!まずいっ!!」
クリムが急いで座標を定めるとテリーナとサラを拾ってから『ワープ』。遥か遠方の高台まで移動した直後、先ほど立っていた位置で大噴火が発生する。
「『イラプトサークル』……」
「言ったじゃろう?魔法以上の力を高火力で無尽蔵に撃てると」
魔法に準拠した挙動だったから魔法の知識があるクリムには回避・判断ができたが、何も予兆もなくいきなり使われていたら間違いなく死んでいた。
嫌な汗が全身をぐっしょりと濡らす気持ち悪さを不快に感じながら、流れる溶岩が街を跡形もなく飲み込んでいく様子を見守るのも束の間、『ワープ』によって移動したゼロストが現われる。
「大きな力を使うとその分動きも読まれやすくていかんのう。次はもっと威力の低い力を手数で撃って攻めるかのう」
「ふーん。面白いことやってんじゃん?」
虚空から声が響いた。聞いたことのない男の声だ。
直後、身体を根幹から揺さぶるような地響きを鳴らしながら一本の雷が青空から走り、ゼロストと『紅蓮と白銀の騎士』の間に落ちる。
「その喧嘩、オレ様も混ぜてくれねーかな?ちょうど一暴れしたかったところなんだよね」
雷が落ちた場所がクレーターのように円形に焼き焦げ、白い煙を棚引かせている場所に二人の男が出現した。
一人はマントを羽織った英雄のような出で立ちをしている金髪の青年。
もう一人は黒を基調とした服装に黒い髪をした道化のような姿の青年。
「トールとロキ……」
軍神トール。
北欧神話で軍神と呼ばれ、最強と謳われた神の登場だ。
「なろう」にていいねが1件、コメントが1件増えました!いいね&コメントしてくださった方ありがとうございます!!
白くてめっちゃ長い胸毛が一本あるんですよ。
指でなんとなく測ってみたら15cmくらいありました。
聞いた話によると、髪の毛って一か月で約1cmくらい伸びるそうなんです。
ということは、めちゃくちゃ長い謎の胸毛は、もう1年以上抜けてないってことですか!!?
ではまた!これからもよろしくお願いします!!
そういえば今日、バレンタインでした。胸毛の話をしてしまって申し訳ありません……。