第116話:絵理華VS『ライザーズ』【完】
「下がれセレン!今のエリカに近づくのはいくら何でも危険だ!!」
「全ての魔法を無尽蔵に使える相手に対して、突っ立って待ち構える方が余程危険かもしれませんよ?」
勇者率いるパーティのタンクの制止を振り切り、腐葉土の積もった森の中を裸足で歩く。
「相反する二つの力を以ってゼロの安寧を与えよ!モノクローム=アンドゥレーション!」
絵理華の周囲で黄色と黒が不気味に混ざり合った魔方陣が出現。幾度となく生命を摘み取ろうとした必殺の光線が超至近距離から発射される。
が、虫を掃うかのように手を軽く振っただけで、セレンに触れた『モノクローム=アンドゥレーション』は何事もなかったかのように消滅する。
「何が起こっているでありますか……?」
「おれたちはゼロスト教とかいうものがさっぱり分からんが、あれは破壊の女神としての力だと言っていた。触れたものを何でも壊してしまうそうだ」
動揺するハロイラに向けてレオルスが説明する。
「セレン殿は天界で神としての力を失ったと言っていたでありますが、本来はあれほどに強力な力を持っているということでありますか?!」
「そういうことになるな。悔しいが、もしセレンがこの場にいなかったら、おれたちとてエリカに勝てたかどうかは分からん。今となっては頼もしい限りだ」
絵理華とセレンの競り合いへと視点を戻す。
「火の獰猛さと風の緻密さを合成させ、対象を焼く炎の波と化せ!スコーチドグラウンド=ウェーブ!」
ゴオオオッ!!!
強風が吹き荒れる音と共に周囲の樹々が一瞬で炎に包まれる。
『スコーチドグラウンド=ウェーブ』。
草原を焼く炎の壁を作り出し、それを風属性の風圧によって一気に推し進める魔法だ。
平地で使えば地を這う炎の壁となるが、鬱蒼と茂る森の中で使えば、森全体を巻き込んだ山火事となる。
のだが、演奏を止める指揮者のように頭上に右手を持ち上げて拳を軽く握るだけで、炎は煙一つ残さないまま消えた。ガラガラと燃えカスとなった枝葉が崩れ落ちる音だけが聞こえる。
「っ!!神が創造せしあらゆるモノを消し去り、新たな世界を創造せよ!ニューワールド=イントロダクション!」
露骨に焦っているのが息遣いだけで分かる。もはやオーバーキルとなる火力と射程を持つ地上最強の魔法を真正面から射出する。
しかし、これも前に軽く伸ばしただけのセレンの右手へと吸収され、今まで存在していなかったかのように霧散する。
「殺すっ!全員を殺すことで私が世界に救済をっ!!」
「もういいんですよ絵理華さん」
聖母が迷える民を包み込むように正面から優しく抱き寄せる。
そして、
「いい加減目覚めてください!!あなたはこんなことをするような性格ではないでしょう!!」
ゴキリっ!!
少し離れたかと思うと絵理華の右手を掴んで関節を極める。
「力業でありますかっ?!」
「そういえばあいつ、おれたちと戦った時には近接戦は格闘技だったな……。意外にも体術を心得ているのかもしれん」
カミサマパワーによって卓越した身体能力のセレンに抑え込まれ、そのまま地に伏す。いくら無尽蔵に魔法が使えると言えども魔証石がなければその力は一般女性の平均並みだ。
「放せっ!放せえっ!!」
「ちょっと痛いですけど、少し大人しくしていてくださいよー」
背中に乗っかって後ろ手に右腕を手繰り寄せ、手の甲に浮かび上がった棒線部分の長い「M」字の血管の「V」となっている部分が「X」字になるように大文字の「Λ」をナイフで刻む。
途端、赤い紋様が消え去って絵理華の体内から殺気が消え去った。
「何をしたというの?ルーンを消したというわけではないようだけど?」
「『神意のルーン』に傷を入れることで、別のルーンに無理やり変更しました」
結構深めにナイフを突き刺したため、かなりの出血量となっているが、致死量には至っていないし、「M」字の太い血管には傷一つ付いていない。ルナティが布を巻き付けて止血しているのを見ながらセレンは続ける。
「『神意のルーン』の「V」の部分を「X」にすると『人間のルーン』になるんですよ。『人間のルーン』を上書きして絵理華さんを神の傀儡から人間へと貶めたことで『神意のルーン』としての役割は消えました。これでゼロスト様の力で暴走することはもうないと思います」
「なら、これで終わったと解釈してもいいのか?」
「いえ、肝心のゼロスト様の暴走が止められていません。急いでロマリアへと向かいましょう!!」
「待て」
よく通る声で不動の騎士は語る。
「ここにいるモノたちは激戦で手負いのモノたちばかりだ。それなのに主神と言われているゼロストとの連戦というのは、さすがに無理があるだろう。せめてダメージが少ないモノのみを集めて行くか、少し回復を待つのが賢明ではないか?」
周囲を見回す。
『煌々たる裁きの剣』はセレンとの連戦を終えてそのまま駆けつけているし、『ライザーズ』はたった今戦いを終えたばかりだ。特に『モノクローム=アンドゥレーション』を直に受けたハロイラの損傷は激しく、荒く重い息を吐いている。
「あたしたちはそんなに激しく戦ってないから『ワープ』で飛んでも大丈夫だけどな」
「だとしても、魔王――いや、それを遥かに超える実力を持った相手との連戦はさすがに危険です。少し休憩を取るべきかと」
「あん?ロマリアが今も破壊されてるってのに、ここで休んでろってのか?!それじゃああたしたち『勇者』の名が泣くぜ?」
「どうする?レオルス?今すぐにでも向かうか?」
違う色の瞳の違う種族の目線が勇者へと集まる。
「……おれだって今すぐに行きたいのは山々さ。でもお前ら。ロマリアに何がいるのか忘れていないか?」
三人の表情が、はっとしたが、レオルスはそのまま続ける。
「あそこには地上最強の【マジックマスター】と、それを支える三人の最強の冒険者がいるんだ。今はそいつらに任せて少し休んでもいいんじゃないか?」
こうして一行は『アルミラージの集会所』へと『ワープ』で移動。テルルやヘイムダルたちと合流して数刻の後にロマリアへと飛ぶことを決めて準備を進めることとなった。
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今回は話す内容がないから、ウマ娘をプレイしていたら誰もが一度は気になる、阪神ジュベナイルフィリーズについて語ろうね!
「名前が長い!」・「意味が分かんな過ぎて名前が覚えにくい!!」・「阪神JFと略した時に朝日杯FSと雰囲気が似てるし、同じターンにレースがあるから混同しちゃう!」ということで我が家では有名な阪神ジュベナイルフィリーズ。
「ジュベナイル」は「未成年」とか「成熟していない動物」を意味する英単語・「juvenile」、「フィリーズ」は「四歳未満の雌の子馬」を指す英単語・「filly」の複数形となっております。
英語で書くと「juvenile fillies」。直訳するならば、「四歳未満で未成熟な雌の子馬たち」という意味になります。
また、「filly」には「おてんば娘」という意味もあるので、「未成熟で元気なおてんば娘たち」と訳すこともできますね!!ウマ娘的には、こっちのニュアンスの方が合っているかも?
ではまた!これからもよろしくお願いします!!