第110話:破壊神セレンVS『勇者』
「あなたたちには消えてもらいましょう。この街と一緒に」
純白のトーガを纏った女神の周囲に極彩色の魔方陣が無数に浮かび上がる。
「……何だあれは?」
「『ニューワールド=イントロダクション』。ある悪龍と戦った時におれが撃たれた魔法さ」
あの時アジ=ダハーカに撃たれたのは一発。
今回ゼルスと話している間に用意されたのが四発。
一発でも山だろうが大都市だろうが跡形もなく消し去ってしまうような魔法を充填した魔方陣が四つも浮かんでいる。
「わざわざ忠告することもないだろうが、当たったら死ぬ」
「ふん。ここまで来て当たっても死なんような魔法、向こうが使うわけないだろうが」
「呑気に喋ってる場合かっ!どうすんだよレオルス!!」
後方から様子を窺っていたトルーニが急かすように口を挟む。
「……何発防げる?」
「全部防ぎたい所だが貴様に二発分譲ってやろう」
「奇遇だな。おれもゼルスに二発分譲ろうと思ってたんだよ」
仲がいいのか悪いのか。
お互いを睨み合いながら軽口を叩く。
「(なあラウン。こんなので大丈夫なのかよ?)」
「(お前もレオルスとゼルスの戦いを直に観ていたから分かっているだろ?あいつらのやり取りには我々は手を出しにくいのだ)」
とりあえず気を付けなければいけないのはゼルスが『煌々たる裁きの剣』のメンバーではないという点。回復は問題なくできるがFFは発生してしまうため、弓矢を使って戦うトルーニと水属性の魔法が使えるリルは注意して援護しないとゼルスに誤射してしまう。
にもかかわらずタンクもなしに最前線でいがみ合っているとは。命知らずというか見栄っ張りの馬鹿二人というか。
「ごちゃごちゃうるさいですね!消して差し上げます!!」
痺れを切らしたのかいよいよ来るらしい。
「神が創造せしあらゆるモノを消し去り、新たな世界を創造せよ!ニューワールド=イントロダクション!」
空中に浮かんだ四つの魔方陣から極彩色の光線が射出される。
勿論、勇者の身体がそのまま光線を受け止めるようなことはない。
「太陽に照らされることで初めてその存在を主張し、ゴミから宝石へと変化せよ!ダイヤモンドダスト=フォーマル!」
自然現象を司る風属性と天体現象を司る光属性の魔法の融合により、レオルスの前にダイヤモンドダストで生成された霧が出現し、
「……むんっ!」
近くでは風を切り裂く音を鳴らしながら大剣が一閃。
形がないものであれば何でも切断できるという銘刀・鎮魂の剣によって魔法すらも一刀両断される。
「水属性魔法の使い手でもない癖に、随分と寒々しい魔法を使うのだな?」
「雪国出身ならこれくらい見飽きているだろ?これはただのダイヤモンドダストと違って魔法だからな。今のお前が触れたら手首が無くなっちゃうぜ?」
レオルスが立つ場所を中心にガリガリザリザリと研磨する音が響き、円形に削り取られていく。
ダイヤモンドダストそのものは空気中の水分が急激に冷やされることによって発生する自然現象なのだが、レオルスが扱うのはその自然現象をモチーフにした風属性と光属性の融合魔法。微細な氷を操って対象を巻き込むことで粉々に摺り潰してしまう。
「……やはり分が悪いですね。わたし自身魔法はあまり得意ではないのですが」
高い威力の魔法を撃った後は大きな隙が生まれる。
どちらかが声を掛けるようなこともなく、同時に疾駆する。
攻撃を仕掛けてくるのはゼルス――ではなくレオルス。ゼルスは真後ろを追走する。
「どんな策があるかは分かりませんが、無力化させてもらいますよ!!」
こちらは触れることさえできれば絶命させることもできるし聖剣を破壊することもできる。
正面から無策に突っ込んでくる勇者に触れる。
が、
「っ!!?」
触れたはずの勇者は光属性の初歩魔法『ライトニング』のような光球へと変化。視界を眩しく覆う。
「レオルスめ。面白い魔法を使うな。このまま両断してやろうと思ったのに」
直後に目潰しされた視界に無骨な男の声。慌てて腕を交差させて大剣を受け止めると、両断された光の塊は霧散する。
「俺はこの地で何度か見ているから分かっているが、幻日を使った魔法だろうな」
幻日とは、ダイヤモンドダストが発生する気象条件に見られる自然現象で、雲の中に含まれた氷の結晶が鏡のように太陽光を反射させることで、本来とは別の位置に太陽があるように見える現象だ。レオルスは『ダイヤモンドダスト=フォーマル』を使いながら幻日を再現し、自身の幻影を作り出したのだろう。
「さて、本物の勇者様は何処に行った?まさか、俺を囮にして逃げたわけじゃあないと思うが」
周囲を見回すが勇者の姿はない。
と、そこに、
「おれはここだっ!!」
背後から勇者の声。
振り向き様に裏拳気味に拳を揮うが、これも幻日。眩しい光がセレンを包む。
「ぐっ!」
直後にゼルスの背後に『ワープ』した勇者が『サンダー=ミサイル』を放つとこれがヒット。少量ながら女神がダメージを受ける。
「……驚いたな。協力するとか言っておきながら、俺を始末する気だったのか?俺じゃなければ躱せなかったぞ?」
「何かを遮蔽物にして攻撃した方が読まれにくいだろ?」
「なるほど。俺も剣の軌道を隠すために貴様を輪切りにするか」
「ぐ……、ううっ…………」
それほど強い一撃ではなかったはずなのに、女神が体勢を崩したまま動かない。
「おい、どうしたセレン?」
「迂闊に近づくな。これすらも罠かもしれないだろ?」
「……どうしてでしょう?」
女神の口から零れ出るような独白があった。
「どうしてわたしはカミサマパワーを与えられても、言われたことすら達成できないんでしょう……?」
どうやら身体の問題ではなく心の問題のようだ。操られていると言えども自我はあるのか、ゆらりと少女は起き上がる。
「ゼロスト様からカミサマパワーを返還されて、やっと破壊神としての力を存分に揮えるはずなのに、どうしてそれでもあなたたちに勝てないんですか?!!」
綺麗なトーガに美しい金色の髪の毛。
それに対応するかのように宝石のような輝きを持つ雫が目から溢れる。
「天界で犯したミスをこの場で取り返せると思ったのに、どうしてわたしはそれすらもできないんですかっ!!わたしは破壊の女神!わたしが世界の破壊をすることは、天からの決定で運命付けられているはずなのにっ!!」
「運命、ねえ」
「予定運命説」という考え方がある。
織田信長が本能寺の変で明智光秀に討たれたのも坂本龍馬が暗殺されたのも、全てそうなるようにシナリオが予め書かれており、人間は無意識のうちにそのシナリオに従って生きているだけというものである。
レオルスは運命という言葉が嫌いだった。
「エリカから聞いたぜ。「そうなる運命だった」とか「そういう風に決まっていた」とかって言い方をよくしていたそうじゃないか。それが運命で、それ以上はどう足掻いても覆らないって。だったら一つおかしなことがあるだろうが」
「おかしなこと、ですか……?」
敵意はないと察したのか警戒を解きながら対峙する。
「おれはどうして魔王を斃せたんだ?ゴロド王国の中でも知っている人の方が少ないような田舎に生まれたおれが、どうして魔王を斃せるに至ったかって言うのを聞いてるんだよ?神様ってのが目の前にいるから聞いてみようと思ってな」
「……そうなるように運命が決まっていたからです。そうとしか言いようがありません」
「ならば、俺がこの男と引き分けたのもそうなるように決まっていたということか?」
苛立ちながら地面に大剣を突き刺す。
「血の滲むような努力もロザスに頭を下げたのも全て無駄で、そんなことをしなくてもおれはレオルスと引き分けになるってことか?!」
「だったら私たちがいなくてもレオルス一人で魔王を斃せたということか?」
ラウンたちがこちらに歩み寄ってから口を開く。
「時に死ぬような思いをしながらレオルスに付き従う必要などなく、このままゴロド王国の王城警備兵の兵隊長を務めていれば、世界は勝手に平和になったということか?」
「あたしだって不満がある」
ふん、と力強く鼻を鳴らしながらトルーニが肩を怒らせる。
「レオルスに殺してもらわなくても母さん(黒龍ガヴェルト。睡眠期の腹拵えのために自らが生み育てた龍人を食べようとしていたところをレオルスが撃破する)は死んでたってことか?とてもじゃないがそうには見えなかったぜ?」
「え、えっと、ええっと……」
神様は一度に複数人の話を聞き取れる、などと尾鰭のついた情報があるが、無理な物は無理だ。
こんなに一度に詰め寄られても返せない。
「いいかセレン。確かにお前は破壊の女神で、天界やゼロストから命令されて破壊を行う使命にあるのかもしれない。だがな、」
後ろを見ると全員が静かに頷く。
「その運命とやらをぶっ壊して進めば、こんなにも素晴らしい仲間に囲まれて、こんなにも素晴らしい出逢いが待っているんだぜ?お前も変な物背負ってないでさ、まずはその轍の上に乗っかったつまらない人生をぶっ壊してみたらどうだ?」
「運命を、壊す……?」
「ああ」
革袋に包まれた手を伸ばす。
「今は勇者様なんて呼ばれているけど、おれは自分が勇者だなんて思ってなくてさ、真の『勇者』ってのは、自分の道を自分で切り開いて進んでいけるやつのことを言うんじゃないかなって。何がしたい?どうなりたい?お前自身の未来を自分で切り開いて、自分で道を作るんだよ!!」
「わたしは……」
戦慄く身体から震えた声が漏れる。
「破壊なんてしたくないです……。例えゼロスト様に反対されて、二度と天界に戻れなかったとしても、わたしは絵理華さんやタイガさん、メイヤさん、ハロイラさん、そして、皆さんとこれからも楽しく過ごしたいです!!」
金髪の少女が牙噛み、涙を拭って差し出された手を握った直後、パキン!という音が鳴りながら純白の羽根が舞う。
「……鎖が消えたな。俺の鎮魂の剣を使わずに洗脳を解いてみせるとは」
聞こえやすいように少し大きめの声で一言告げると、宵闇のような黒いマントを翻す。
「いいものを見せてもらったが俺には到底真似できそうにないな。……あれが『勇者』か。これは次に戦っても勝てぬかもしれん」
くつくつと喉を鳴らして笑うと孤高の剣士は静かに去っていった。
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もうすぐアニメポケモンのサトシが世代交代するとのことで、今回は様式美とロケット団について話していきましょうかね!
ロケット団といえば、アニメポケモンを観たことがあるなら誰もが知っている、ムサシ・コジロウ・ニャースの三人(?)組のことです。
サトシが持っているピカチュウやポケモンを奪ってボスのサカキに献上し、出世することを目指して様々な工夫を凝らしますが、結局いつも失敗。「ヤな感じー!!」と叫びながら吹き飛ばされていきます。
海外のファンが纏めた統計によれば、「ダイヤモンド・パール編」まではほぼ毎回登場。(特に「ダイヤモンド・パール編」の登場率は100%。毎回必ず登場していたようです)しかし、「ブラック・ホワイト編」で約60%、「XY編」で約85%、「サンムーン編」で約60%と、「ブラック・ホワイト編」から極端に出番が減っています。
ロケット団の出番が大幅に減った理由としては、本来「ブラック・ホワイト編」でプラズマ団が登場する予定だったのですが、そのプラズマ団が
活躍する回が大津波が街を呑み込む描写のある話であったため、東日本大震災直後というのもあって放送できなかったことと、プラズマ団が出せない分の帳尻合わせとして、コミカル担当のロケット団がシリアス路線に回されたことに原因があったりします。
あくまで藤井の私見ですが、ロケット団の登場回数が減ったのには、もう一つ理由があると思います。
それは、ロケット団が「ワンパターンで飽きた」との意見がネット掲示板などで散見されるようになったことです。
言ってしまえば、「ダイヤモンド・パール編」までのロケット団は、
・登場する
・同じ名乗り口上
・バトル
・「ヤな感じー!!」と叫びながら退場
の、四つを番組終盤で行うだけに登場するキャラクターで、毎回展開が決まっていますし、どんなにシリアスな話でも、このためだけに5分~10分程度尺を割かなければなりません。
でも考えてみてください皆さん。
「水戸黄門」で格さんが印籠を見せつけて、「この紋所が目に入らぬか?!!」と叫ぶシーンを観て、「またこのパターンかよ」・「マンネリじゃないか」とは思いませんよね?
何故「水戸黄門」のこのシーンを観てもつまらないと感じないのかと言うと、作品全体としてそれを一つの見せ場とし、印籠を見せる一つの流れを様式美として完成させているからです。
これはアニメポケモンにも言えていて、ロケット団が登場してから退場するまでの一連の流れが、ロケット団の見せ場であり、アニメ全体の雰囲気を和ませるのにも一役買っていたのでは?とわたしは思っています。
……何だか話が前後していて、少し分かりにくい文章になってしまったような。
纏めますと、ロケット団が登場するのを「ワンパターンでつまらない」と言う人がいますが、それは違って、「水戸黄門」の格さんが印籠を見せるシーンのように、登場してから退場するまでが一つの様式美になっていて、ロケット団が活躍する一つの見せ場なんですよ!
だからワンパターンでも仕方がないですし、回によっては一部名乗り口上が違ったり、ニャースが使うメカの種類が違ったりするから、その僅かな違いや工夫を毎回楽しんでくださいね!!ということです!!『ワンパターン』と『様式美』を間違えないようにっ!!
ではまた!これからもよろしくお願いします!!