第108話:孤高の剣士
カザチャッケ王国の首都・プルメナ。
人間が住める土地のうちで最北端に位置する国の都市とだけあって、人口はロマリアには遠く及ばないが、それなりに栄えた都市でもある。突如現れた破壊の女神が生み出した恐怖に背中を押されるような形で次々と首都の関門から人が吐き出される。
「うおっ!」
その時、一人の老人が注意を怠り何者かにぶつかってしまった。その何者かは低い男声で老人に問う。
「プルメナで何があった?人々が慌てふためいているようだが?」
「は、破壊の女神を名乗る何者かが現われて、街を破壊しているんだよ!!あんたも逃げないと危ないぞっ!!」
「……そうか。報告感謝する」
男は老人を起こすと人々が逃げる方向とは逆方向へと爪先を向ける。
「まさかあんた?!その女神とやらと戦う気じゃないだろうな?!!相手は北国では最強と謳われたLSランクギルド・『北方調査隊』すらも一瞬で倒したような怪物だぞ?!!あんた一人で敵うものか!死に急ぐだけだぞ?!!」
その肩を掴んで老人が止めようとするが、男は肩を揺らしてその手を掃い、
「ならばますます興味がある!かつて勇者と引き分けたこの俺が、その実力を試してやろうではないか!!」
背中に佩いた長剣の柄を握りながら男は駆けて行った。
「……何だったんだあいつは?気が狂ったか??」
男の背中を見送っている場合ではない。
老人は雪で足を取られないように注意しながらプルメナに背中を向けて走る。
☆★☆★☆
「ば……、かなっ…………!!この『北方調査隊』が負けるなんてっ……!!」
「張り合いがないですね」
長く美しい金髪を持つ女神が吐き捨てると、ナチュラルロングに重装備鎧の女騎士はその場に崩れ落ちた。
破壊の女神としての力が覚醒したため、ゼロストの指示に従って北上。『北方調査隊』を名乗る四人組が勝負を仕掛けてきたが、こちらは一宗教の女神。柄の折れた巨大ハンマーが転がった周辺には、腰の辺りに鈴をつけたポニーテールの少女やローブを纏った少年、よく日に焼けた肌が特徴的の筋骨隆々の男神官が転がっていた。
「王には逃げられましたが、まあいいです。この辺りを更地にして差し上げましょう」
石造りの背の高い建物の表面をセレンが軽く撫でた途端、風雨に晒された砂の城のように崩壊し、砂煙を上げながら形を失う。
セレンが持つ力は触れたものを破壊する能力。
例えそれが鉄だろうが煉瓦だろうが木だろうが関係なく、あるいはハンマーで叩いたかのように破砕し、あるいはダイナマイトで吹き飛ばしたかのように粉微塵になり、あるいは正確な知識を以て丁寧に解体したかのようにパーツに分解されて形を失う。
「こんなに張り合いがないとなると、早く片付きそうですね。さっさと終わらせてゼロスト様に合流しましょう」
人があまり寄り付かない極寒の地とだけあって、『紅蓮と白銀の騎士』レベルの強さを持つギルドは周辺の国にはおらず、『北方調査隊』もこの場で全滅させた。歯向かうモノは誰もいないため、後は破壊を完遂するまでだ。
若干の物寂しさに手指を開閉させながら次のターゲットを見定めていると、
「そんなに張り合いがないと言うのならば、この俺が相手になってやろう」
雪国だというのに崩れた砂埃がまるで砂嵐のように舞うカザチャッケ王国の首都プルメナ。
王国お抱えのLSランクギルド『北方調査隊』が壊滅し、ほとんどの人間の避難が終わった今、この場には誰もいないはずなのに、砂煙の中に人影が見える。
「かつて勇者と引き分けた剣豪がな」
黒を基調とした服装に黒いマント。
味方によれば英雄にも敵にも見える男が姿を現した。
「……誰ですかあなたは?」
「勇者と引き分けた」ということはレオルスの知り合いなのだろうが心当たりはなく、『ライザーズ』として旅をしていた時も出逢った記憶はない。素性の分からない男に言葉を投げ掛けると、
「剣撃王ゼルス。今はそんな気恥ずかしい冠詞など捨ててゼルスとだけ名乗っているがな」
自身の惨めさを肯定するかのように男は肩を軽く揺らす。
剣撃王ゼルス。
魔王ロザスを支える四天王の中でも最強で、特に剣術の腕に関しては比肩するモノはこの世界には存在しないと謳われた男だ。
「剣撃王ゼルス。……ああ、魔王軍の残党ですか。で、その惨敗兵が今さら何の用ですか?」
カミサマTVで世界の出来事を俯瞰していたわけではないため、こちらの世界に来てから見聞きしたことしか情報がないはずなのだが、カミサマパワーが宿ったことで全ての状況が見えるようになったらしい。いつの間にか頭の中に入っていたゼルスの情報を脳から叩き出す。
「貴様に会いに来たのには二つの理由がある。一つは貴様が女神と呼ばれるほどに強力な存在であること。『最強』と謳われる人間は世界に一人で十分だ。二人も要らぬ」
「では二つ目は何でしょうか?」
ゼルスは背中に背負っていた大剣の柄を握ると、
「貴様が俺の故郷を地図から消し去ろうとしていることだ!!」
陽光を受けた紫電を放ちながら抜刀。一直線に駆ける。
「っ!!」
いきなりかつ素早い奇襲。
だが、こちらには破壊神としての力があるため問題ない。
相手の得物を開幕で砕くべく刃の軌跡に手を添えて受け止めると、重い音と火花を散らしながら刃が手に触れた状態で止まる。
「なっ?!!」
セレンの全身をバリアのように神力が覆っているため、攻撃を受けたのであれば身体に触れることなく止まるはずなのだが、あの男の刃は確実に手まで届いていた。小手調べの火力だったから良かったものの、もう少し力が入っていたらそのまま右手がすっぱりと切断されていたかもしれない。
(カミサマパワーで受けきれなかった?それともカミサマパワーが破られた?)
「動揺しているようだな?目が泳いでいるぞ?」
獅子は兎を狩るのでさえ手を抜かないという。
愉悦に浸ることもなく鋭い眼光を向けながら剣士は語る。
「これは鎮魂の剣という特殊な剣で、見えないものを斬ることができる剣だ。貴様がどのような神でどのような力を持っているかは知らんし興味もないが、この剣は使えば魔法であろうが『第三の力』であろうが問答無用に斬ることができる。貴様に勝ち目はない」
「随分と規格外な武器ですね」
何でも作れてしまう創造神のテルルとは違って武器を生成できるわけではないので、今持っているもので戦うしかない。
しかし冒険中これと言った装備を装着しなかったため、セレンが使える武器は己の拳のみだ。
徒手空拳でカウンターを決めるべく肩幅に足を開いて構える。
「……貴様の方から来ないのか?女神とかいうからには、もっと楽しませてくれるかと思ったが、随分と逃げ腰だな?」
「要するに、近接戦に持ち込んであなたの身体そのものを触ればいいだけの話です。そうすればあなたは人間としての形を失って死ぬでしょう」
「なるほど。近接戦で俺に勝てると。随分と舐められたものだ」
切っ先を向けた剣の周囲を光属性の精霊と闇属性の精霊が舞う。
「魔法剣ですか?光属性と闇属性ということは、『モノクローム=アンドゥレーション』でしょうか?」
「半分正解で半分不正解。答えはその身体で受けて確かめてみろ!」
黄色と黒が混ざり合った刀身を掲げたまま疾駆。勿論この攻撃を受け止めてカウンターに活かす予定だったが、
「くっ!」
第六感が「避けろ」と指示。感に任せて一撃を避けると、紙一重を通り過ぎた刀身は地面へと刺さり、刃と接した大地がごっそりと削り取られて消失した。二人を中心として周囲にクレーターのような窪みを生成する。
「【マジックマスター】というスキルを知っているか?火・水・土・風・光・闇の六属性のあやゆる魔法を使えるスキルだ」
最も身近にいた人物が持っているため首肯する。
「永い歴史を紐解いてもほとんど登場しない珍しいスキルだと言われているが、その【マジックマスター】と対になるスキルの存在を知っているか?」
この世界のナビゲーターを任されたセレンはそれくらいの知識は頭に入っている。問いに答えるように言葉を形にする。
「【ソードマスター】」
「ご名答だ」
相手が女子供だろうが故郷を乱す敵ならば容赦しない。
そんな強い意志を瞳に宿しながらゼルスは次の攻撃に備えるべく体勢を整える。
「俺のスキルは【ソードマスター】。全ての属性の斬撃技を組み合わせることで、魔法に準ずる効果を再現することができるのさ」
世界で最も北に位置する大地で孤高の剣士が本領を発揮する。
「なろう」にてブックマークが1件、いいねが1件増えました!ブックマーク&いいねしてくださった方ありがとうございます!!
ここ一週間くらい新作に関する案をあれこれ考えていました。
藤井の場合は「全く思い浮かばなくて困る」ではなく、「浮かび過ぎて困る」なので、なかなか練り直して形にするのが難しかったりします。
しかも、話を膨らませにくい作品ばかりになりがちなので、折角思い付いても今後の展開が思いつかん!みたいなものが多いです。
一応思い付いた中でボツとなったのは、
●ボッチ×軽音楽
孤独と音楽を愛する少女たちがSNSで有志を募ってバンドを結成。リモートで何度かセッションしていくうちにお互いを認め合い、音ずれするもどかしさや「会いたい」という純粋な気持ちから、引き籠りやボッチたちが心を開いていくさまを描いた青春作品。藤井の思い描いていたぼっち・ざ・ろっく。
●ヤバいラブコメ
メンヘラ・ヤンデレ・宇宙人・電波少女……。まともに恋愛すると死ぬ危険な少女たちとの恋が成就しないように、そして何よりも身の安全を確保するために、主人公(男)が恋愛フラグを回避していくラブコメ。
●世界征服もの
『どんな人間でも就きたい職業に自由に就ける世界』を目指して世界征服を目論むヒロインと、偶然組織の存在を知ってしまったがために組織に無理やり加入させられた主人公を描いた話。時々シリアスな日常もの。電撃大賞にて一度撃沈した。
●音楽もの
時は数年後の日本。メッセージ性や力の籠った曲よりも、耳障りの良さを誰もが重視するようになったことで、電子音声によって再生された声で歌われた曲が音楽業界を席巻。人間がテレビなどの公共の場で歌う歌は世界から消滅し、人間が魂を込めて歌っている歌を『古い歌』として嘲笑する世界で、主人公は一人『古い歌』を聞き続けるヒロインと出逢う。
の四つです。
もしかしたら再び拾うことがあるかもしれませんし、使わないままお蔵入りになるかもしれません。今のところはまだ分からないですね。
「この作品気になる!書いて」みたいなのあったりします?今後作品を作る上で参考にさせていただきますよ!!コメント欄にて、ひっそりと教えていただければ幸いです!!
もし「このアイデアで書いてみたい!」という作家のお方がいましたら、コメント欄にて一声掛けていただけると嬉しいですよ!!
ではまた!これからもよろしくお願いします!!