第100話:魔杖アルーフ=ザ=レストリクション
『くくく。観ていたぞ生娘よ。我が生み出した『ニューワールド=イントロダクション』を使ってカロルを撃破したな!』
カロルの心臓を破壊して『アルミラージの集会所』に帰ると、珍しくウキウキしながらアジ=ダハーカ(人間)が待ち構えていたので、『ライザーズ』のメンバーでぞろぞろとアジ=ダハーカ宮殿(仮称)へと移動する。
『どうだあの魔法の使い心地は?!『モノクローム=アンドゥレーション』と効果はそれほど変わらないが、威力と射程・そして見栄えの格好良さはどの魔法にも劣らない逸品だぞ?!!』
「だとしても使うのにいくら何でも手間が掛かりすぎだよね……」
「所謂『ロマン砲』ってやつですよね……」
ロマン砲とは、一撃において圧倒的な瞬間火力が出る反面、連射ができない、条件が揃いにくい、大きなデメリットが伴うなどの理由で小回りが利かず、実用性が低くて使いにくい攻撃や武器などを指す言葉である。
『だが、あの魔法を使った時の爽快感は得も言われぬものがある。……おっと、もっと話してやりたいところだが、貴様らを呼んだのにはもっと他の用がある。カロルが所持していたアルーフ=ザ=レストリクションを持っているだろう?それを我に預けてくれぬか?』
「それで世界を滅ぼすとか言うのではないでしょうね?」
「そうなったら私の【テイム】で止めるから大丈夫だよ?アジ=ダハーカも私が【テイム】したモンスターだからね」
「アジ=ダハーカ殿もモンスターでありますか?!誰がモンスターなのか分からないでありますね……」
両肩の辺りから蛇の頭が二つ生えているのだから何となく察して欲しいものだが、200年以上生きているとこれくらいの異様な見た目では驚かなくなるのかもしれない。
『これが魔杖アルーフ=ザ=レストリクションか……。本物は初めて見るな』
「そんなに珍しい武器なの?」
『何せ命と引き換えに、スキルを持たないモノでも【マジックマスター】に相当する魔法が使えるようになる杖だからな。魔法が使えないモノたちからすれば垂涎の的よ』
グリップ部分を握りながら杖を傾けると、窓から差し込んだ光を受けて宝珠が輝く。
『ここに六つの宝珠が嵌まっているだろう?赤色が『消失の宝珠』・青色が『万化の宝珠』・茶色が『生命の宝珠』・緑色が『不変の宝珠』・黄色が『銀狼の宝珠』・黒色が『魔眼の宝珠』。それぞれの宝珠に火・水・土・風・光・闇の属性の魔力が込められていて、例えば『消失の宝珠』一つだけでも【爆炎の才】の【神】に匹敵する魔法が、準備魔法を使わなくても使えるようになるのだ』
「各属性の【神】に匹敵する魔法が使えるようになる宝珠が六つ嵌まることで、全属性の魔法を網羅した【マジックマスター】へと昇格できると言ったところかしら?」
『如何にも。その強大過ぎる力を恐れた人間どもが魔杖を完成させないために六つの宝珠と杖をバラバラの場所へと封印したのだが、何をどうやったのか分からないが、カロルはそれらを全て搔き集めて完成させたようだな』
「わたしを生み出した部族の一人だったそうですし、そう考えると少なくとも1,300年以上は生きていることになります。それだけ永い年月があるんだったら全て見つけられるんじゃないですかね?」
「単純計算で一つ発見するのに200年でありますか。それだけの年月があれば誰でもできそうでありますね」
「あの……、ちょっといい?」
みんなのアイドル・ルナティちゃんがこっそり手を挙げる。
「その杖を使えば誰でも【マジックマスター】になれるってことだよね?だったらルナティちゃんも【マジックマスター】になれたりする?」
『これを使えばなれるだろうな。だが気を付けろよ?』
魔法を極めた黒い龍は続ける。
『我は『負』の概念を固めたような存在だし、カロルはリッチだったから良かったが、生身の人間が一度魔法を使うと身を引き裂くほどの激痛が走り、三~四回魔法を使っただけで屈強な戦士でも苦痛に耐えられなくて死ぬと聞く。それでも痛みに耐えられるというのであれば使ってみるのもまた一興かもしれぬ』
「え゛っ?!」
『なるほど。生身の人間に使わせて壊れる様子を観察するのも面白そうだな。試しに使ってみるか?』
「遠慮しておきます遠慮しておきます遠慮しておきますううう!!!ルナティちゃんが握るのは自分が愛する武器と恋人の手だけで十分ってことがはっきり分かりましたっ!!!」
『まあつまり、何かを手に入れたかったら何かを対価として支払わないといけないということだ。この杖の場合は命と引き換えに絶対的な魔法力だがな。だから小娘よ』
手中で杖を弄びながら龍は絵理華に告げる。
『【マジックマスター】などという両手の指で数え切れるほどしか歴史の舞台に出てこないスキルを貴様は持っているのだ。これからも存分に才能を活かすがいい』
☆★☆★☆
「これからどうするんですか?テルル?」
カミサマパワーを失ってただの少女となったテルルをそのまま放置するわけにもいかないのでとりあえず保護。共同で寝泊まりする部屋へと連れ込んで『ライザーズ』のメンバーが囲む。
「どうするも何も、カミサマパワーを失ってしまった以上、ここから下手に動くこともできませんね。武器の心得があるわけではないので、モンスターとの戦闘も一切できませんし」
「それもそうなんですけどー、ほら、まずは「ありがとうございます」じゃないんですかー?わたしたちが助けなかったらどうなるか分かりませんでしたよー?」
「ぐっ!!」
意地悪な表情をしたままセレンが小突く。
「ほらほらー。あんなに人を見下すようなことを言っていた癖に、その人間たちに助けられちゃったんですよー?これはもう感謝の気持ちを述べておくしかないんじゃないですかねー?」
「うるさいですね!言われなくてもいいますよ!!」
髪型と声質以外は全く同じ二人がじゃれ合っている(?)のを見ていると、本当に姉妹なのだという実感が湧いてくる。
「……………ございます」
「何だって?そんな声じゃ絵理華さんたちに聞こえませんよ?」
「……がとうございます」
「んー?まだまだ声が小さいですよー?カミサマパワーだけじゃなくて声まで失っちゃったんですかねー?」
高飛車で凛とした妹をここぞとばかりに弄り倒すべく、セレンのウザさがエスカレートしていく。
「そんな小さな声じゃ聞こえないですよー?もっとお腹から声を出してくださいよー」
「……何でわたしが人間如きに頭を下げなければならないんですか?」
「わたしたちがカロルに挑発されなかったら今頃どうなっていたんでしょうね?『本物の女神を捕まえる機会など滅多にないから、身体を好き放題弄って実験動物にしてやる』とか言って、実験材料にされてたんじゃないですかね?」
「……ありがとうございました」
悔しそうに金色の髪を揺らしながら頭を下げる。
「ちゃんと謝りましたよ?これで満足ですか?」
「うーん。まだまだだなー」
お祭り騒ぎには必ず便乗する兎頭が口を挟む。
「この世界ではさ、スキルとレベルが高ければ高いほど偉いわけ!カミサマパワーがあれば強いテルテルでも、今はスキルのない一般人なんでしょ?だったらさ、LSランクの冒険者であるルナティちゃんたちにもっと誠意が欲しいよね!「何処までも着いて行きます隊長!!」的な感じが欲しいよねっ!!」
「ルナティさんって初めてギルドに入った時って、そんな感じの誠意ありましたっけ?」
「てへっ☆」
「絵に描いたような反面教師ですね?!」
「「いい男がいっぱいいるから来い!」って誘ってきたエリポンが悪いんだぞっ!」
「付いて来たのはルナティだよね」
「そんな理由でギルドに入ったというの?!」
「呆れるでありますね……」
何だか内輪で勝手にぎゃあぎゃあ揉め出したので、いつの間にか話題の外へと追いやられる元女神(その2)。
「仲が好いのか悪いのか分からないギルドですね」
しかし、このやり取りは聞いていて何処か心地が良く、姉の「人間の人間らしい所が好き」と言っていたのが少し分かったような気がした。
「なろう」にてブックマークが1件、いいねが3件、コメントが2件増えました!(12月29日~1月5日分)ブックマーク&いいね&コメントしてくださった方ありがとうございます!!自動更新にしてお正月休みを満喫していたので、コメントの返信が遅れてしまったのは、どうかお許しをっ!!
ところで皆さん、愛知県の一部の地域にしかないクソ文化、『夏休みの日誌』と『冬休みの日誌』をご存じでしょうか?
小・中学校時にのみ夏休み・冬休みに出される冊子のようなもので、ベネッセの「チャレンジ」みたいに、一日一ページ毎に様々な教科の課題があって、それを熟していかなければならないクソシステムです。
例えば体育だと「縄跳びの何とか跳びを何回しろ」、家庭科だと「家族と一食分料理を作ってイラストを描こう」、音楽だと「リコーダーでこの曲を吹いてみましょう」、国語だと「次の漢字の読み書きをしましょう」(ド直球)だったりします。元旦とかだと書初めをやらされ、課題としての提出が義務づけられていたりもします。
愛知県の一部の地域の少年少女たちよ、もうすぐ冬休みが終わるぞ?書初めは終わっているか?料理を作って写真に撮ったか?死ぬほど面倒臭いがやるしかないぞ?
ちなみに、高校生の妹は冬休みが9日の成人の日まであると言っていたけど、冬休みの5日間なんてすぐに終わってしまうぞ?そろそろラストスパートを掛けるべきじゃないか??
ではまた!これからもよろしくお願いします!!