8話目
「…」
レンは黙っていた。
何も言わずに、アイの方を見ていた。
「あはっ、バレちゃったかぁ…」と言うと、溶けるように消えた…
すると、暖かかったひかりはたちまち赤く変化し、ギラギラと照らしだした。
「な、なにこれ…!?」
コウは怯えたように言った。
「わからない…わ、わたし何かしちゃった…?」
アイは戸惑いながら辺りを見回した。
(どうしよう…わたしが指摘したから?
もしかして、ギリギリまで指摘しちゃいけなかったのかも…とにかく、コウのことを連れて逃げなくちゃ…!)
「コウ…逃げよう…!今すぐここから…!」
そう言った時、レンが溶けた所から「どこに行くの?」と声がした。
(レンの声…きっと戸惑わせるつもりなんだ)
アイはコウに手を差し伸べ「行こう」と言った。
だが、コウは動かなかった。
「…?どうしたの、コウ。早く逃げなくちゃ…」
「や、やだ…」
コウは震える声で言った。
「な、なんで…?危ないよ…逃げないと…」
アイは困惑しながらも必死に訴える。
だが、コウは動かなかった。
動こうともしなかった。
「だ、だって…ここは暖かかったよ?
こんな僕でも、暖かかい場所に居られたんだ…だから…」
「何言ってるの、コウ…!早く行こう…?」
コウは震える声で続けた。
「だから、ここから離れるなんて言わないで!」
コウの言葉と同時に、コウから赤い光が放たれた。
「…っ」
アイは急いで離れると、恐る恐るコウの方を見た。
「コウ…貴方は何者なの…?
どうして、ここから離れたがらないの…?」
コウから放たれる光は、コウの瞳の色と同じだった。
鮮血のような、真っ赤な色。
「…僕はね、おひさまに当たれないんだよ…
当たると痛いの。おひさまの暖かさなんて知らない…あなたが知ってる世界を、僕は知らない…ねぇ、ここに居たいんでしょ?居てくれるんでしょ?ずっとここに居てよ、居ようよ…その為なら、あなたが探している人だって、ここに引きずり込めるよ…」
コウの言葉を、アイは理解できなかった。
「確かに…わたしはここに居たいって言った…暖かかった、この場所に。
でも、もうここは暖かくない。怖いくらい…冷たい…」
アイは胸の前で手をギュッと握った。
「だから…っ!」
「暖かければ、いいの?」
アイの言葉を遮るように、コウが言った。
「え…」
アイは理解できなかった。
コウが言った後に、さっきのように白く暖かい光が戻ってきたのだ。
白い花たちも、綺麗に咲いている。
「どういう、こと…?」
「暖かければ、アイちゃんはここに居てくれるんだよね?レンって人もここに連れてくれば、ずっとずっと…!」
コウは笑っていた。
今までで、一番上手な笑顔。
「えへへ、そうすれば、ここに人が増えるし、一緒に居てくれる人も居る…僕もう寂しい思いをしなくて済むんだ!」
(この子は…本当に寂しかっただけなんだ…)
アイはそう思うと、悲しくなった。
涙が、勝手に出てくる。
「アイちゃん?どうして泣いているの?」
コウはキョトンとして、アイに近づいた。
「わからない…人のために泣くとか、したことないもん…」
アイは泣きながら言った。
コウはキョトンとしていた。
「人のため…?僕の、ため…?」
「あなたは、いつからここに居るの…?」
アイが泣きながら尋ねると、コウは「わかんない…でも、ずっと前からだよ」
コウは心配そうに笑って言った。
また、ぎこちない笑顔…
(ずっと、この子は1人で居たんだ…見たところ、同い年くらいの子が、1人で…)
コウは心配そうにアイを見ていた。
アイはコウを抱きしめた。
「大丈夫…わたしが絶対助けるから。」