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不在連絡票  作者: 狐火
青木瞳
1/8

親ガチャに、課金しましょう。



 ――親ガチャに、課金しましょう。来世では私があなたの親になり、そしてあなたを運命に載せて殺します。


 親の背丈が高いせいで、私の居場所はいつも日陰。日の光は与えられず、心に栄養は与えられなかった。私の母親は所謂毒親で、罵詈雑言、ネグレクトは当たり前だった。


 私は生まれつき耳が悪い。補聴器がなければ何も聞くことできず、補聴器を付けたとしても健常な耳ほどは正確に音を聞くことができないが、日常生活にはさほど影響はない。母はいつも、私の聴力の低さは私という人格の低俗さを表しているかのように物を言う。箸の持ち方が少しでも悪ければ、私の髪を引っ張り、大して働かない私の耳元に口を近づけ甲高い声で「くたばれ、阿婆擦れ女」と母は叫ぶ。


 私は見た目が良い。街を歩けば知らない男に声をかけられることも多く、学生の時は恋人を作ることに苦労しなかった。聴力の低さも容姿端麗な私の唯一の可愛い欠点となり、男の心をくすぐるのだ。私に「守ってあげたい」とほざく男は、数えきれないほどいた。


 学生の頃は異性に人気があることを良いことだと思っていた。しかし、それが母から「阿婆擦れ女」と呼ばれる理由になっていて、いつの間にか本当に自分が阿婆擦れ女であるかのように私は錯覚していた。


 早く親元を離れたいと思っていた私は、大学には進学せず就職した。実家の青森から離れた福岡に就職を決めると、母は進学せずに遠く離れた場所に就職する私を酷く叱った。母から離れられることだけを考えていた私には、もう母の罵詈雑言はどうでもいいことに感じられた。


「あんたは障がい者なんだから、親元にいるのが一番なのよ。なのに福岡なんかに行って、やっていけるわけがないでしょう? 野垂れ死ぬのが眼に見えているわ」


 母の怒りのスイッチが入った時、私は何も言わずただ時が過ぎるのを待つ。何を言っても母には私の言葉を理解する知能がないのだ、と諦めていた。


 母が異常なことに気が付いたのは、中学生の時だった。それまでの私は世間一般の母親とは厳しく子供をしつけるもので、ヒステリックで頭の悪い生き物だと思っていた。母は外面が良く、私の友人の前ではにこやかで普段の底意地の悪さを表にすることはなかったため、私は自分の母の異端さを知ることが出来なかったのだ。


 中学生になり反抗期を迎えた友人たちは口々に自分の親の悪口を言っていたが、その内容は「化粧品を買ってくれない」など「勉強しろと言われる」など、私の母に比べたら生易しいもので、私はようやく違和感を覚え始めたのだ。


 定期的にチェックされるスマホで、履歴が残らないよう母の態度を調べてみると、自分の母が典型的な毒親であることを知った。


 なぜ自分は生きているのか、いっそのこと死んでしまいたい、そんな希死念慮も、恋人に必要以上に依存してしまう自己固定感の低さも、すべて自分の育ちから来るものだった。普通の母親は娘に「くたばれ」なんて言葉は使わない、その事実がこれまでの私の疑問の答えを導き出す。


 幸いなことに私の見た目は良く、コミュニケーションを取る時は耳が悪いことが気になってしまい物腰が柔らかくなる。それが功をなし、男女問わず周りの人は私に優しくしてくれた。


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