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こうして痴漢冤罪は作られる  作者: 門脇 賴(カドワキ ライ)
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第18話 N簡易裁判所公判4 被告人質問①


 年が改まって、第4回公判の日がやってきた。神野はNa裁判官に促され、被告人席に立った。K弁護人の尋問開始。


 


「貴方は一昨年、Kスポーツジムにおいて、原告女性の臀部を着衣の上から触ったということで起訴されているわけですが、事実は間違いないですか?」


「触れたとは思いますが、触ったという認識はありません」




「原告女性の臀部をどこで触れたということになるのですか?」


「親指の付け根あたりじゃないでしょうか?」




「原告女性の臀部のどのあたりだと認識されてますか?」


「脚の付け根あたりに当たったんじゃないかと」




「臀部は左右どちら側ですか?」


「左側」




「貴方は右手を原告女性の臀部に意図的には触れてはいないということですか?」


「ええ、ストレッチングを覚えてもらうつもりだったので」




「意図的にとはどういうことなのか、もう少し具体的に説明してください」


「触りたい気持ちで触るんですかね」




「触りたい気持ちで触ったわけではないと」


「はい」




「触るつもりはなかったが、原告女性の左臀部に当たってしまった。そういうことですか?」


「そうですね。スライドさせようとして」




「右手を原告女性の臀部にあてて、上下に動かしたとかは?」


「ないです。通常このストレッチングを教えるときには、ふくらはぎから上にスライドさせ太もも、臀部の方へ上がっていく感じです」




「通常論はさておいて、今回貴方の右手が原告女性の臀部に当たったとしたら、どんな当たり方をしたんですか?」


「ぶつかったような…」




「貴方の右手がどのような動作をしているときに原告女性の臀部に当たったんですか?」


「このストレッチングに効果がある部位はここですと説明するためにスライドさせている時」




「時系列を遡って質問しますね。まず、貴方は原告女性に前屈をして欲しいと依頼されましたね?」


「はい」




「貴方は原告女性の左斜め後ろに立って、左手で原告女性の肩を触られたんですか?」


「だったと思います」




「そのうえで、貴方は右手で原告女性のどのあたりを触ったんでしたか?」


「今回ふくらはぎはよく覚えてないんですが、太ももの下の方から上にかけてストレッチングに効果のある部位をスライドさすというか…」




「貴方は原告女性の左脚を触ったんですか?」


「そうですね」




「それは触ろうという意図をもって触ったんですか?」


「強い意志はなくても習慣的に。その部位がストレッチングに効果的だということを覚えてもらうためなんで。意図と言えば意図かもしれないですね」




「脚と言っても範囲は広いですが。足首からふくらはぎ、太もも、臀部の付け根あたりまでありますが、まず貴方が右手で触った場所はどこですか?」


「はっきりとは覚えていませんが、通常はふくらはぎからですが今回は太ももの下の方…、膝ですね、膝のすぐ上あたりからだと思います」




「膝裏ですか。膝のすぐ上あたりを右手で触った認識がある。それは意図的なんだと?」


「そうですね」




「その後、どんな動きをされたんですか?」


「スライド。ハムストリングが一番効果的な部位なんで、そのまま上にスライドさしていった」




「膝上あありから臀部にかけて右手をスライドさせていったということですか?」


「そうです」




「上の方にスライドさせていって、右手は結局どうなりました?」


「普通は飛行機が離陸するようにす〜っと離れるんですが、原告女性の場合は何かにぶつかったような感じで止まったんだろね」




「止まった?」


「ええ」




「貴方の右手と臀部がぶつかって止まったんですか?」


「という風に思いましたけどね」




「止まって、貴女の右手は静止したままだったのですか?」


「はい、一瞬間は」




「何か抵抗を感じて、すっと手を離したということですか?」


「そうです。それとほとんど同じタイミングで、『大友さん、内線が入ってますよ』と声が掛かりましたけどね」




「貴方が原告女性の左肩、太ももの裏あたりを触った意図、理由は何ですか?」


「先ほどから何度も言っているように、ストレッチングの効果的な部位を示すためです」




「貴方はインストラクターの利用者であって、原告女性はインストラクターでしたよね、立場としては?」


「そうです」




「どちらが教えてもらう側なんですか?」


「通常、私がその立場ですね」




「今回はストレッチングを教えてもらう側はどちらだったんですか?」


「ストレッチングに関しては、私が教えようとしたわけですね」




「今回は,貴方がストレッチングを教えたんですか?」


「まあ頼まれた訳ではありませんが、自分が人に教えてもらって非常に効果的だったんで……」




 このあたりから、神野の答弁は非常にぎこちなくなる。


 重要な箇所なのに、K弁護人とのやりとりがうまくかみ合わない。


 端的な答弁を要求される質問が多く、伝えたいことがうまく答弁できない。




 マラソン、トレイルの雑食ランナーである神野にとって、このストレッチングはとても重要なものである。


 彼は10年ほど前から腰がガチガチになって前屈不能で、このストレッチングができない。


 この原告女性がこのストレッチングの効果を理解してくれれば、親身に自分のガチガチ腰のことを考えてくれるのでは? 


 スキルはともかく、多少の可能性を彼女のノウハウに期待してのことだった。




 K弁護人の尋問は続く。




「貴方は今回に限っては、自分の知識を原告女性に教えてあげるつもりでストレッチングをさせていたということですか?」


「まあそうなんですが……。元々は、自分が非常に身体が硬くって、マラソンランナーの端くれとしてこのストレッチングが非常に効果的だとマラソンの先輩たちから教わって……」




「前屈の仕方を教える際に、前屈をする人の左肩や太ももを触る必要ってあるんですか?」


「ただ前屈するだけなら必要ないですよ」




「貴方が前屈の仕方を教えてもらった時に、教えてくれた人は貴方の左肩や太ももに触ったりしましたか?」


「肩には触れてないですね。ハムストリングは触れられましたね」




「ハムストリングを触ることによって、何が分るんですか?」


「それはストレッチングに効果のある部位ですから」




「前屈ってどこを伸ばす動きですか?」


「ハムストリング全体ですね」




「腰じゃないですか?」


「ないです」




「貴方が原告女性の太ももを触った理由はハムストリングが前屈によって伸びているかどうかを確かめるためだったということですか?」


「というか、効果的な部位を意識させるためです」




「貴方が原告女性の太ももを触っている時、『ハムストリング、伸びてるね』とかの言動はありましたか?」


「覚えてないですね。してないと思います」




「そういう言動をするつもりはありましたか?」


「『ここはどう?』という言い方はしたと思うんですけどね」




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