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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

捨てられ聖女シリーズ

捨てられ聖女は愛を乞わない

作者: 水紅

「私、コンラッド王国第二王子、オーガスト・コンラッドは、聖女を騙り王国を混乱に貶めたサティファ・マルスとの婚約を破棄する!

 かわりに、先日真の聖女であると判明したこのメルリーナ・ランドールとの婚約をここに宣言する!」



 それは王城で主催されたとあるパーティーでのことだった。

 その声の主は、白を基調とした無駄にキラキラな正装を身に纏った、この国の第二王子であるオーガスト殿下。みてくれだけは一級品なものだから、年頃の令嬢はころっと騙される。現に、今この場であり得ない発言をしたにも関わらず、令嬢たちはオーガスト殿下の言葉を鵜呑みにしてしまった。幼い頃から高度な教育を受けてきたくせに、これがどれほどの問題発言であるかつゆほども気づかないらしい。

 私を睨んで、後で痛いめを見るのはそっちだというのに。



「オーガスト、貴様何を言ってる。」



 憤怒を露わにした様子でオーガスト殿下に声をかけたのは、この国の主、マーティン・コンラッド国王。この馬鹿の親でありながら、大変まともで誠実なお方である。



「父上、この女は偽物なのです。自らを聖女であると偽り、この国を貶めようとしていたのです。メルリーナはその策略にいち早く気づいて、私に教えてくれました。ですので、私はこの女と婚約破棄し、真の聖女であるメルリーナと婚約します。」



「そうなんです!サティファ様は本当の聖女ではなかったのです。きっと、どこかの国のスパイなんですわ。早くこの国から追い出すべきです!」



 最後まで言い切って満足気な顔の馬鹿たちは、気付いていない。国王陛下が今どんな顔で自分たちを見ているのか。

 この表情から察するに、彼らの未来に光はないだろう。ご愁傷様。



「衛兵。コレらをつまみ出せ。」



 息子のあまりの馬鹿さに呆れたのか、無の境地に至ったような顔で国王陛下がおっしゃった。それに反応して、衛兵がこちらに来る。



「ちっ父上!何故ですか!つまみ出すべきはあの女です!」



「きゃっ!何するの触らないでよ!私は聖女なのよ!」



 必死に暴れる彼らだが、ろくに訓練もしたことのないお坊ちゃんとお嬢様が抵抗できるような相手ではない。コンラッド王国の騎士は優秀なのだ。



「貴様らはろくに調べもせず、今回のことに至ったのだろう。前々から馬鹿だとは思っていたが、まさかここまでとは…」



 国王陛下は、普段は滅多に見せない疲れたような顔でため息をつく。馬鹿な息子をもつと大変だ。たが、同情はするが、今回のことは私も流石にフォロー出来ない。

 きっと、()()()は今頃大変お怒りだ。むしろ、あんな馬鹿発言をした時点で斬りかからなかっただけマシである。

 あぁ、来ちゃった。



「ははっ。随分と面白い劇を見せてもらったよ。コンラッド国王。」



 優しげな声なのに、やけに凄みがあるのはどうしてだろう。

 美しい銀髪を靡かせて、スラリとした長い足で悠然とこちらに歩いてくるのは、隣国カナリア帝国の皇太子。文武両道、才徳兼備、全知全能、仙才鬼才、彼を褒め表す言葉には枚挙にいとまがない。一言で言えば、人智を超えた存在なのだ。大陸どころか世界的にも有名なお方である。


 そして、決して()()()()()()()()()()ことでも有名であった。



「…レイリス・カナリア皇太子殿下、この度のことは誠に申し訳ございませんでした。」



 コンラッド国王はそう言って、地に頭をつける。土下座だ。一国の王が土下座する姿など、なかなか見られるものではないのだろう。周りで事の成り行きを見守っていた貴族たちが唖然としている。

 私としては特に驚きはしないけど。



「ちっ父上!何を…」



 思わずといったように声をあげたオーガスト殿下は、しかしすぐに声が途切れる。もともと騎士たちに押さえつけられて床に転がっていたところを、更に上から頭を押さえつけられたのである。ゴッッと、妙な音を出していたが、気にしない。気にしないったら気にしないのだ。

 たとえ、押さえつけている張本人が、完璧なアルカイックスマイルで足でグリグリとしていたとしても。現在進行形で、メリメリっという不安な音が聞こえていたとしても。

 彼の機嫌を損ねてはいけない。そうなれば、更に被害が増すことはこれまでの経験上私も理解していた。


 下手したら、この程度の国は一晩で滅びるかもしれない。



「ははっ、汚い虫の鳴き声が聞こえるね。もう、二度と鳴けないようにしてあげようか。どう思う、コンラッド国王。」



 どう思うと問いながら、彼は選択肢を与えない。コンラッド国王の答えは最初から一つだ。



「レイリス・カナリア皇太子殿下のお気に召すままに。」



「…いい返事だ。」



 まるで幼子を褒めるように妙に優しげな声で言う。だけどその瞳の奥が淀んでいるのを、私は見逃さなかった。伊達に長い付き合いではない。

 それに、()()()なのだから、これくらいは分かって当然だ。



「レイ、もう国に戻りましょう。こんな所にいっときでも長く居たくないです。」



「…そうだね、僕の愛しい姫。僕も君をこんな汚らわしい所に長く居させたくないよ。さあ、帝国に帰ろう、サティー。」




 サティファ・マルス。その名は()()()()()()()()()の名だ。

 聖女というのはそもそも一国に一人と、昔から決まっている。そして、その聖女を判定する儀式のやり方は各国で異なり、()()()()聖女しか判定出来ないのだ。つまり、違う国の聖女では聖女判定がでない。そして、私はカナリア帝国の儀式で聖女判定がでた、カナリア帝国の聖女なのだ。

 しかし、聖女の力自体はどこの国でも問題なく振るうことが出来た。それが今回の騒動を引き起こす原因となったのだろう。


 今から五年前、コンラッド王国は未曾有の大災害に襲われた。原因は聖女の不調。教会で手厚く保護される筈の聖女が、ろくに飯も与えられず、ただ祈りを捧げ続ける毎日を送っていたのだ。

 本来なら聖女という存在は、神に近しい人物として大切にしなければいけない。しかし、貴族上がりの教会の神官たちは、平民出身であった聖女を蔑み、ぞんざいに扱った。それが神の怒りを買ったのだ。

 そして、引き起こされた大災害。多くの被害を出したそれは、聖女の命を奪っていった。激怒した神が早々に彼女を天界に連れ戻したのだ。聖女とは神の愛し子。愛しい我が子が傷つけられたのだ。怒って当然である。


 しかして、聖女をなくしたコンラッド王国は次々と不運に見舞われる。もはや、王国滅亡の一歩手前まできたというところで、王国に一筋の光が差し伸べられた。その光こそ隣国の皇太子殿下、レイリス様だった。彼は王国への援助を申し出たのだ。

 もちろん、最初はカナリア帝国の聖女である私を、コンラッド王国に招き入れるなんて案はなかった。当たり前だ。私を溺愛しているレイが自分からそんなことを言う訳がない。カナリア帝国の皇太子が婚約者をそれはもう溺愛しているというのは、恥ずかしいくらい有名な話だった。


 では、何故私はコンラッド王国に居たのか。簡単な話だ。私から言い出したのだ。正直、私自身、自分と同じ存在である聖女をぞんざいに扱われていたということについて、大変怒っていた。その教会のクソ神官どもに直接一発いれるべきだと思ったの。いや、むしろ、一発ですむような怒りじゃなかったけど、既に聖女を慕っていたコンラッド王国の平民たちから何発も受けていたらしく、仕方ないから一発でやめてあげたのだ。

 若干、聖女としては相応しくない行動だが、王国の平民たちは大変喜び、私たちはそろってクソ神官どもの悪口を吐きあい、意気投合したのだ。実は私も平民出身なので、彼らと仲良くなるのに時間はかからなかった。


 そんなこんなで彼らと仲良くなってしまった私は、クソ神官どものせいで災害に巻き込まれ、貧しい生活を送るはめになった彼らを助けたいと思うようになった。そりゃ、帝国の民たちだって大切だ。それはこの先も決して変わることはない。しかし、少しの間私が帝国を離れたとしても何の問題もないだろうとも思った。だって、私の婚約者は最強だから。


 レイを説得するのは意外と簡単だった。そもそも彼は基本的に私のやることに対して、反対しない。自分でいうのもなんだが、レイは私に対して激甘なのだ。

 ただしその代わり、私がコンラッド王国にいる間は、人質的な意味でコンラッド王国の王太子が帝国に行くことになった。恐らく、この五年でレイにたっぷりしごかれて、素晴らしい王太子になっていることだろう。あの時、涙目で不安そうにしていた王太子がどう成長しているか楽しみだ。


 話がずれたので戻そう。


 とりあえず、そういう訳で私はコンラッド王国で聖女として働いていたのだが、あの馬鹿な王子は何を思ったか私を自分の婚約者だと勘違いし、あまつさえ偽聖女だと侮辱し、婚約破棄まで言い出した。私を溺愛しているレイがそんな暴挙を許す筈がない。

 というか、私がカナリア帝国の聖女だということさえ知らないとか、あの馬鹿どこまで馬鹿なんだろうか。馬鹿の周りで侍っている令嬢たちも。



 あの馬鹿にも私を睨んだ令嬢たちにも、この先決して明るい未来などやってこない。これは既に確定していることだ。


 だって、私には私を溺愛する最強の婚約者と、この世界の最高神がついているんだから。






「サティー、愛してるよ。もう一秒も僕から離さない。」






 捨てられ聖女()は、これ以上の愛を乞わない。



                       fin.

ちなみに、レイリス皇太子が王国の援助を申し出たのには裏があります。もともと帝国の領土を広げたいと思っていたところだったので、これは丁度良いと滅びかけた王国に手を差し伸べ、建て直したら属国にするつもりでした。(彼からしたら、滅びかけた国を建て直すくらい難しいことではないです。)

王国の王太子は人質として帝国に居ましたが、これも彼の計画通りです。属国にしたときに、自分に忠実で優秀な統治者が必要だと思い、王太子を育て、もとい調教しました。

馬鹿王子の勘違いと暴走にも事前に気づいていましたが、これを理由に脅せば簡単に属国にできると思い放置していました。あとは、自分の婚約者に無礼を働けばどんな結末を迎えるのかということを、世界中に見せつけるためでもありました。

馬鹿王子がその後どうなったかは皆さんの想像にお任せします。ちなみに途中から発言していない真の聖女とか言っていた令嬢は、実は親に吹き込まれて半ば洗脳状態にあったので、サティファが哀れに思い、レイリスを説得しました。彼女は貴族籍は剥奪されましたが、サティファの侍女として、日々幸せ(盲信的)に暮らしています。


以上、どうでもいい補足でした。

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