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プロローグ

たぶん続ける?

陽射しが強い。木々の枝葉に繁る鮮やかな緑が瞼に眩しい。昨日の大嵐が嘘のようだ。ガタガタと馬車が動いていく。しかし道が湿っているので、車輪の音は鈍って反響しない。


「もうそろそろ、街に着くな…」


俺は後ろを向き、場所の荷台で寝ているツレに、声をかける。


「起きろ、レア!もうそろそろ街に着くころだ」


「ウ~ン、あと少し」


けだるそうなツレの返事に思わずため息をつきたくなる。


「さっきも同じこと言ってただろ!さっさと起きろ!」


後ろを振り返り、手を伸ばす。毛布にくるまり、モゾモゾと蠢いているバカを視認してから、毛布をつかみ引っぺがした。


「うッ~…眩しい…灰になるぅ~」


太陽に反射し、鈍く光る銀髪が露となる。顔を両腕で隠し、顔は見せないものの心底けだるそうな表情をしているのは想像に難くない。


「吸血鬼か、お前は」


「そう、私は吸血鬼なんだ。太陽の光を浴びると灰になってしまうんだ。こんな美少女が、灰になるなんて世界の損失だろう?分かったら、毛布を返してくれ」


「ハッ、美少女(・・)?ハハハハハ、不老不死の魔女様は、面白いご冗談をおっしゃる」


皮肉を吐き出した後、後ろを向きながら、馬車を運転するのもよろしくないので俺は前を向く。すると、後ろから腕を回され馬車の荷台に引っ張り込まれる。

必然的に俺はゴンッ!っという鈍いと音共に、荷台に頭からダイブした。後頭部をぶつけた痛みは、中々のものだ。


「痛ってぇ~、何するんだ…よ」


痛みに悶えながら、視線を上げるとそこには吸い込まれてしまいそうな蒼色の大きな瞳がある。端正な顔立ち、ほんのりと上気した頬、抱きしめたら折れてしまいそうな小柄な体。確かに、絶世の美少女と容姿だけを見れば、言われるであろう容姿。1000人いたら、999人は振り向くだろう容姿だ。しかし、中身の腹黒さと残念さを知っている俺からすれば、レアの美貌にいちいち赤面したりはしない。反則とまで言える可愛さに、屈したりなんかしない・・・。


俺は、腹筋を使って起き上がり馬を止め、体の態勢ごと後ろを振り返る。


「ルノアは………私のこと……嫌い…かな?」


そう言って、レアは涙目になりながら、下から覗き込むように上目遣いで、もたれかかってくる。一瞬、ふわりと甘い匂いが鼻腔をくすぐる。破壊力抜群の上目遣いに一瞬たじろいき、くらくらとしたが、どうせ演技だろうとレアの体になるべく負担をかけないように優しく自分の体から離す。


「見え透いた演技はやめろ」


レアは、何がおかしいのかクスクスと笑う。


「…やめろと言いつつ、ルノアの顔真っ赤だよ?本当に、男ってこういうのに弱いよね~」


レアは、自分の容姿を自覚している。そして、どう見せれば可愛く見えるかを最も理解している。この、魔性ともいえる女に迫られれば、演技だと見ぬけていても赤面してしまうだろう。


「…ハァ~、もうそろそろ街に着く。身支度を整えておけ」


そう言って、俺は体を前に向け馬を動かす。再び、馬車は不規則に揺られながら、街に向かって進み始めた。


「なんだよ~、昔はもっとうろたえてたクセに~。生意気だぞ~」


不満そうにしている、ツレにため息交じりに返す。


「そういうお前も変わったな、レア。出会った頃は、もっとお淑やかで幻想的で、ミステリアスだったのに…」


「そういう君だって、もっとからかい甲斐があったのにな~」


「チッ…」


「あ、君今舌打ちしただろ!?あ~あ、いったい何時からこんなに反抗的になってしまったのか」


大げさな身振り手振りで、レアは嘆いた。


「ろくでもない、魔女と出会ってしまったのが運の尽きだったな~」


「ええ~、ひどくない?君にとって私は何なんだよ~?」


「うわぁ~、面倒くさい女が言うセリフだな、それ」


「真面目に答えてよ」


「…言葉ではとても言い表せない」


「何、そのしょっぱい台詞」


「塩が利いている干し肉が好きだろう?」


「だって、果実を除いた保存食の中では味が濃いのってあれぐらいしかないじゃん!…って、あれ?話がそれてない?」


「さて、見えてきたぞ。あれが、王国最大のブドウの生産地『ギュンダー』だ」


「…逃げたな」


俺は、レアの言葉を全力で無視してまだ見ぬブドウ畑を夢想した。



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