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穴開ける次期王妃の婚姻譚  作者: 甲光一念
第三章 ロデウロ編
98/156

98、私は気遣えない

「……ヴァレ、というと、件のヴァーレ孤児院と何か関係のあるお方ですか?」

「というか、設立者だね。だからまあ、その院長先生も多分事情は知ってるんじゃないかなと思う。その上で、マレちゃんに真実を隠していた。あたしがそれを邪魔するのは、本来とても無粋なことなのかもしれないけど、本人が知りたいと言ってるならあたしにそれを邪魔する権利こそないと思っちゃうんだよ」

「院長先生が、かくしてた……」

「ヴァレ……、マレちゃんの母親は何て言うのかな、簡単に言えば王族嫌いの王族だった。昔から王族っていうだけで、王族が王族面してるのが生理的に受け入れられないって奴だった。あんたらからすれば不思議な話だとは思うけど、意外とそういう思想は少なくない。自分が内部にいるが故に、どうしても構造的な欠陥にばかり目が行ってしまう。身内贔屓ならぬ、身内の粗探しって感じでね」

「家族だからこそ、歪んだ部分を看過できないという感じでしょうか。立場的に近いからこそ、身内の不甲斐なさを容認できないと言いますか……」

「まあ、別にその当時のセルム王家にこれと言った不備があったわけではなかった。王族として頼りない部分があるというわけでもなかった。でも、何かがヴァレの琴線に触れたんだろうね。あの子はやたらと精力的に動いていたよ。セルム国内に孤児院を十数か所増やし、それらへ対しての資金援助の法案を個人の仕事とは思えないほどに通した。元々セルムは子供の教育に力を入れている国だったけど、それをさらに数段上に押し上げたのは確かにあの子だった」

「王族としてならば、これ以上ないほどに有能という印象を受けますね。王族に求められている優秀さというのは、極端に言えば、今までとは全く違う国の方向を開拓するか、現状での得意分野をさらに伸ばすかという二つに分けられます。その点で言えば、ヴァレ様は……、貴方のお母さんは、自分の国を思い、愛し、発展に協力した、素晴らしい人格者だった」

「……えへへ」


「……問題は、あの子の妊娠が発覚して、出産予定日までもう一月もないという頃に発生した。自分の子が王族の継承者争いに参加することになるかもしれないということに耐えられなかった、なんて言われてるけど、実際は分からない。でも、ヴァレは唐突に姿を消した。城から、夫と一緒に逃げ出した」

「……事情は分からないわけではありませんが、妊娠中の身体で、城から逃げ出すなんてことが可能なのですか? セルムの警備が特別雑だという話は聞いたことがありませんが」

「ヴァレの能力も『固定系統』の能力だった。兵士の十人くらいなら、完全に止められるほどに強力なね。あたしがマレちゃんをヴァレの娘だと断定している理由の一端がそこにある。能力はシンプルな能力ほど子へと継承されやすいって話くらい聞いたことがあるだろう?」

「そう、なの?」

「まあ、そうね。能力は両親の能力から派生、要は、少しだけ似ている能力になり易いと言われているわ。例外的に、両親の能力が同一の系統であった場合、突然よく分からない能力が発現、あー、芽生えることがあるとも言われてるけど……。『固定系統』の能力と言っても、それがどういう能力かは千差万別……、えっと、人それぞれなのよ。貴女の能力のように、他人の身体をただ固定するレベルのシンプルさは、なかなか珍しいの。何も無い場所から生まれてくるなんて、有り得ないと言えるほどには」

「とても丁寧な説明ありがとう。正直、さっき手足を固定されてた時に、あたしは懐かしさを感じた。窮地とは思えないほどに落ち着いてたのはあたしの肝が据わってるとかじゃなくて、単になんだか安心しちまってたからさ。あの時は、自分でもよく分からなかったけどね。それにまあ、これ以上話すこともない」

「……城の外でこの子を産んだヴァレ様は、城の人間が見つけやすいように名前にステムと分家の家名を付け、本と共に孤児院に預けた、と?」

「そうさね。あたしが現在の情報で推測出来る限りでは、ここが限界さ」


「……この期に及んで、隠し事は無しでは? 貴女はこの子に教えると約束したはずです。意図的に隠しているのが簡単に露呈するような雑な話の終わらせ方は、さらに踏み込んだ話をするかどうかの判断は私に任せるという意思表示か何かでしょうか?」

「……察しは付いてるんだろう? それをマレちゃんに話すのはもう少し先でいいとは、思えないかね?」

「思えません。全くもって。これっぽっちも。真実を知るのは早ければ早いほどいい。いつか、いずれ、その内、将来的に、ええ、それは確かにとても尊重すべき考えでしょう。ですが、今知ることが救いになることもあって、そしてそれは誰にも分からない。分からないのならば、それは今話すべきなのです。……本来ならば、もっと早くに知っていたはずの事なのですから」

「……えっと、お姉ちゃん。どういうこと?」

「……残酷なのでしょうね、私は。私はきっと、シユウ様に真実を教えてもらって救われたという思いがあるからこそ、こんな残酷なことを言えてしまう。人でなしと思われても仕方ないようなことを。幸運だったのは、私が真実を知っても、そこからやり直そうと思える人間だったということ。……貴女にそれを期待してしまっている私を、恨んでも構わない。恨んでも、前に進んでくれるなら。憎まれ役を引き受ける価値は、きっと十分にあるから」

「…………」

「マレ、貴女の両親は、もう亡くなっている。もう死んでいて、二度と会えないのよ」


 シユウ様なら、どういう言い方をしただろう。こんな直接的じゃなく、もっと柔らかく遠回しに言っただろうか。あるいは、私の時のように包み隠さずにただただ真っ直ぐ真実だけを告げただろうか。でも、私にはこういう言い方しかできない。他人を慮る生き方なんて生まれてこの方教わっていないから。


 マレの目から静かに涙が零れる。声を上げないのは、現実感がついてきていないからか、あるいは、両親とは言っても会ったこともない他人にも等しい存在だからか。それに対して、私からは何も言えない。私だって、ある日突然両親が死んだとしても、涙の一滴だって零さないだろうから。むしろ笑うかもしれない。


 申し訳なさからか、私はいつの間にかマレを抱きしめていた。拒絶されたら困ったけれど、マレからも私に抱き着いてくれたので、どうやら恨まれてはいないらしい。慰めの言葉の一つも思い浮かばない。服に染み込む涙が、その温かさとは裏腹に、いやに私の心を冷やした。親のために泣けるこの子が、羨ましかった。

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