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穴開ける次期王妃の婚姻譚  作者: 甲光一念
第三章 ロデウロ編
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93、私は指を曲げる

 とりあえず、犯人候補として見るべき対象は現時点では二組。前後に走っている車に乗っている人間。前を走っている車に乗っているのは見える限りでは運転席に一人だけ。体格と髪型的に恐らくは男性だろうけど、女性という可能性もなくはない。あんまり本題には関係ないのでこだわりはしないけど。


 後ろの車には運転席に男性、助手席に女性。カップルとして見るべきか、そういう風に見せかけるための偽装か。さて、ここから私が取るべき行動は、まあ一組ずつ距離を離していくことだろう。例えば、後ろの車に銃を向けてスピードを落とさせ、それに合わせて前の車と距離を離し、その後に後ろとも距離を離す。


 問題としては、それで解決しなかった場合だ。能力の効果範囲外に出られなかった場合、車間距離を離してしまうとそれ以降の対策が一切取れなくなってしまう。こちらが攻撃に気づいていることを把握されると、警戒されて身を隠されるかもしれない。そうなってしまえば、この車が市街地に突入することはもはや避けられない。


 シユウ様が起きたところでと強がってみたものの、やはり実際、使えるはずの戦力が使えないというのは思った以上にストレスだ。こんな予想外の事態でサロメ様を責めることはしないけれど、もし何かの間違いで目覚めてくれたらと思ってしまう。そんなことを考えている場合ではないというのに。


 通常、警戒しなくてはならない方向としては前後左右上下が全てだ。しかし、前後にあからさまに怪しい車、走っている車の上下に誰かがいるわけないという固定概念、対向車線を走り抜けていく車。考えるほどに前後の車が怪しくなってくる。せっかく銃があって、無駄にカッコつけてしまったのに使わないなんてことが。


「……固定?」


 サロメ様の足と手の固定から、敵の能力は『固定系統』の能力であることは推測できる。でも基本的に、他者の動きに干渉する能力は射程距離が極端に短い。それこそ前後の車からくらいじゃないと使用し続けることは不可能なほどに。だからこそ私はその二台を怪しいと考えたわけだけど、もしそうじゃなかったとしたら。


「すみませんサロメ様、窓を開けます。そして窓から身体を乗り出します」

「えっ、ちょっ、アンナちゃん!? 今のあたしじゃ足も持てないよ!?」

「構いません。この程度でバランスを崩すほど柔ではないので。……いない。だとしたら」


 身体を戻した私は助手席の背もたれに『ポケット』で穴を開け、思い切り拳を入れた。あ、なんか生温かくて柔らかい感触。これ当たりだ。信号機のある道路に突入してしまうまでに残された猶予はあと一分程度。もうなりふりかまっている余裕はない。私は銃を握った手を穴に入れ、口を近付ける。


「今すぐ能力を解除しなさい。しなければ貴方を撃つので結果は変わりません。この車が血で汚れるか汚れないか程度の違いでしかない。そこは貴方の意思に任せますが、意味のない死に方はしたくないでしょう?」


 そもそも、護衛の車が周囲にいないのはサロメ様の勝手な行動が招いた不測の事態だ。前後に護衛の車が走っていれば疑う対象は限りなく少ないはずだった。というか、誰を疑うべきかの見当すら付かないような状況だったはずだ。そう、狙ってこの車の前後を組織の車が走ることは本来限りなく難しい話だったはずなのだ。


 要は、前提からして違った。この車がどういうルートを走るのだとしても、サロメ様の手足を固定できるような位置に敵はいたはず。だとしたらそんな場所、この車の内部としか考えられない。私が窓から身体を乗り出したのは、屋根の上に誰かいないかを確認するためだ。結果としては無人だった。ならば、潜める場所は。


 車のトランク。車体のどこかに空白の場所があるかもとかは私の知識では分からなかったけれど、迷っている時間もないと手を突っ込んだそこには確かに誰かがいた。王妃の車に護衛がこっそり乗り込んでいるわけがない。それこそ不敬の極みというものだ。


 まずい、反応がない。猶予はあと三十秒を切っている。まさかこのまま時間稼ぎでもするつもりじゃないでしょうね。所詮十二歳の小娘に銃で人を撃つような度胸など無いと高を括られているのなら、そんなに業腹なことはない。仮にも私だって、将来国の頂点に立つ者として育てられてきたのだ。


「……交渉決裂ね。さようなら」


 車内に轟音、車体に振動。私が人差し指を曲げるのと同時に、右手に生温かい粘度高めの液体が付着した。運転席からサロメ様が驚いたような顔で私を見ているけれど、別にそこまで驚くほどの事じゃないと思う。懇親会の会場で私が犯人の一人の足を切断したという情報は伝わっているはずだ。あの時だって別に死んでも構わなかったわけで、今回が特別というわけでもない。


 いや、王妃の命がかかっているという意味では、あの時よりも切羽詰まってはいたけれど。というか、一国の王妃の命がかかっているというこの状況で殺しに来た者の命を心配するとか、それは完全に優先順位が狂っている。私は別に善人ではないし。大体、撃ったのも腹部だし、今から病院にでも直行すれば死ぬことはないだろう。


 人違いということもあるまい。何もやましいことが無いのだったらすぐさま大声でも上げて否定しているだろうし、この車に乗っている時点で撃たれても文句など言えないほどの暴挙だし。穴に耳を近づけると呻き声が聞こえたので死んでいないことは確認できた。後はなんだか足の様に使っているみたいになるけど、サロメ様に病院まで車を走らせてもらって。


「……なるほどね、車内に潜んでたのか。ちなみにその穴はどこに繋がってるんだい?」

「トランクの中です。この車、ワゴン車なのにトランクと座席が繋がっていないので、まあ潜んでいるならそこかなと。車内を血で汚してしまったことに関しては謝罪しますが、とりあえず病院に向かって頂けますか? 情報源を死なせるのも惜しい話ですので」

「あー、それなんだけどね、アンナちゃん。ちょっと現在不測の事態が起きてる」

「え? どうかしましたか? お腹でも痛くなってしまったとかですか?」

「手足がまだ離れない。ごめん、なるべく車は避けるけど、信号無視せざるを得なくなっちゃったから、とりあえず気を付けて?」

「……殺せば解除されますかね、それ」

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