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穴開ける次期王妃の婚姻譚  作者: 甲光一念
第三章 ロデウロ編
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91、私は城を見る

 生まれて初めて見る海を綺麗だと思えたのは、私の人生にとってきっとプラスなことだったと思う。ただ、少し前から、あれ、何だかおかしいな、と思っていることが一つだけある。海が見える道路を車が走り始めたのが大体十分前なのだけれど、何気なく海側とは逆の窓を見ると城が見えた。フルランダム家の城だろう。


 シーツァリアの城ほどごちゃごちゃとしていない外観、海の近くということもあって、その壁は輝くほど整った白色だ。街の風景と調和を取り、海沿いの街らしい爽やかなとてもいい建造物だと思う。思うのだけれども。王妃が運転する車に乗っている私達は今、あの城に向かっているはずなのだけれど、どうもなんだか遠い。


 城自体が大きいだけに近づいたり遠ざかったりすれば結構はっきり分かるはずなのだけれど、そう考えると何だかむしろ遠ざかっているような気すらする。この海沿いの道路を進むほどに距離が離れていっているような。いやまさかそんなわけ、と思っていたのだけれど、どうも何かがおかしい。


「あの、サロメ様、一つだけくだらないことをお聞きしてもよろしいでしょうか」

「……いいとも、一つと言わずに百個でも何個でもすればいい。あたしに隠し事はないからね。言いたくないことはあっても」

「ではお聞きしますが、私達は今、ロデウロの王家である、フルランダム家の王城に向かっているのですよね?」

「ああそうだ。グースともそこで合流することになってるし、ジエイもゾーンもいる。うちの男連中は馬鹿ばっかりだけど、まあ悪い奴らじゃないから心配はいらないよ」

「そうですか。分かりました」


 城に向かっているのならばこれ以上私から聞くことはない。別にサロメ様を疑っているわけではなく、私の考えていた目的地と、実際の目的地が違うのかもしれないと思っての質問だったので、まあこれ以上いらない質問をする必要もない。サロメ様が口に出さないということはその程度の話なのだろうし。


「……アンナちゃん、あんた結構いい性格してるね?」

「ふふふ、そうでしょうか? よく言われるのですが、サロメ様からもそう思っていただけたなら嬉しいことこの上ありませんわ」

「そういうところがね。とりあえず聞いてくれない? あたしが何を言いたくないのかってところを」

「……王妃様が言いたくないことを言わせようとするほどの度胸は私にはありませんので……、気になりはしますが、下手に国の機密とかを教えられても困りますし……」

「なるほど、なんであんたがシユウと上手いことやれてるのかが分かった。押しの強さ的に主導権握ってんのはシユウなのかと思ってたけど、全然そんなことないんだね。シユウの立場が結構低いってことをようやく把握できた」

「まさかそんなわけ。王族を、しかも初対面で結婚してくれなどという正直な方を蔑ろになど出来るわけありませんわ」

「分かった、ごめん悪かったよ。もう少しシユウに世間の常識的なものを叩き込んでおくべきだった。正式に謝罪するからあたしに質問してください、お願いします」


 しまった、やり過ぎた。一国の王妃に敬語を使わせて謝罪まで約束させてしまった。わー、やってしまったー。まあ私としても、まさか本気で謝罪させようだなんて考えていない。そこの部分はいずれシユウ様にでも肩代わりで責任にすればいい。親に頭を下げさせたくはないだろうし、いい材料が手に入ったのでは。


 いや、下衆すぎでしょ。正直なところ、私は本当に王妃の言いたくないことなんて聞きたくないと思っていただけだ。大したことじゃなければいいけど、大したことだった場合に取り返しがつかなすぎる。と思っていたのだけれど、言いたくない話って聞いてほしい話ってことだったのね。何だその無駄な捻りは。


「……分かりました、訊きましょう。一体どうしたのですか?」

「あー……、不思議に思わなかったかい? あたしが何で城と正反対の方向にひたすら車を進めてるのか……」

「……まあ、気になってはいました。道なりに進めば城への道に繋がるのだろう、程度に考えていましたが」

「うん、まあ、そう考えるよね。実際全くそんなことなくて、このままだと離れていく一方なんだけど」

「……では何故、ひたすら真っ直ぐに車を走らせているのですか? 何処かに寄り道でもする予定でも?」

「こっちの道に来たのは、元々アンナちゃんに海を見せてあげたいって理由だったんだよ。海とシユウを絡めてそれっぽいこと言おうとかは正直一切考えてなかった」

「そのカミングアウトいりますか?」

「あたしの見張りをしてる奴らにとって、あたしの行動が完全に予想外だったってことさ。本当は護衛連中の車が三台くらい近くを走ってる予定だったんだけど、今は一台もいない」

「確かに護衛の車が周りにいないことに疑問を感じてはいましたが、まさかそんな理由だったとは……」

「まあ煩わしかったからその内振り切るつもりではあったんだけど、今になって考えると完全に失敗でね。後悔先に立たずにも程がある話だけど……」

「……失敗? そこまで致命的な状況には見えませんが?」

「まあ見えないよね。別にあたしからも特別なものが見えてるってわけじゃない。ただ現状、あたしは城にすんなりと戻ることはできなくなってる」

「不自然な車でも見つけましたか? この車を追ってきているような挙動の。私からは見えませんが……」

「違うって。不自然なことは何も無いんだ。あたしがそれに気付いたのも偶然。今は信号のない道を走ってるからいいものの、王妃が道路交通法無視なんて笑い話にも……、ちょっとはなるかね?」

「……えっと、すみません、車の運転に関しては年齢的に疎いので、遠回しに言われてもいまいち推測しかねると言いますか」

「分かった、そんなアンナちゃんでも簡単に理解できるように言おうか。あたしは今、アクセルペダルから足を離すことが出来ない。少しだけ踏み込んだ状態から前にも後ろにも足が動かせないんだ。加えて言うとハンドルからも手が離れない。強引に車を止めても、あたしは脱出が出来ないってことだね」

「……能力」

「ああ、外部からの攻撃だ。出来ればでいいんだけどさ、将来の母親を助けてみる気って、ないかい?」

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