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穴開ける次期王妃の婚姻譚  作者: 甲光一念
第三章 ロデウロ編
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89、私は身に覚えがない

 サングラスを掛けなおしたサロメ様は前を向いて車を発進させる。状況があまりにも意味不明過ぎる。なぜ私はロデウロ王妃の運転する車の後部座席に座っているのか。というかこの場にグース様がいないって絶対にあの人知ってたでしょ。というかさっきの電話ってこの件だったんじゃないの。


 まさか周りも王妃が運転してる車がこんな傍を走ってるとは思ってないでしょうね。というか私もいまいち現状が信じられないところあるし。顔は間違いなく、以前写真で見たロデウロ王妃そのもの。能力で顔を似せているならば、シユウ様を眠らせることは出来ないはず。


 いや、というか逆でしょ。普通私を眠らせて親子水入らずで会話するとかそういう場面じゃないの。なんで息子眠らせて他国の貴族と一対一なのよ。王妃とそんな対談できるほど立派な身分じゃないのよこっちは。密室に二人きりって段階で胃がやられそうなのよ。さっき焼き鳥食べちゃったし。


「すまなかったね。本当はこんな不意打ちみたいな形で二人っきりになんてなりたくなかったんだけど、多分ここを逃すと、もうこの連休中に二人で話せる機会は無いと思ったんだよ。念押ししておくけど、あたしはシユウと話したかったけど能力の対象を間違えたとかじゃないからね?」

「……私に、言いたいことがあったということでしょうか?」


 シユウ様から、ロデウロにいる親族が私達の関係をどう思っているのかについては度々聞いていた。次期国王である兄のジエイ様の意見も、現国王であるゾーン様の意見も。しかし、現王妃であるサロメ様がどう思っているのかについては聞いたことが無かった。


 シユウ様の方から一度も話をしないのは何故かという点は気になってはいた。ただ、不都合だから話さないのかもしれないと思うと、私の方からは聞けなかったというのが本音だ。誰も彼もがこんな関係に好意的なわけがないと思うと、少し気が重かった。


 だから今回の件はある意味ではいい機会だとは思っていた。私達の関係が公認のものになるのかどうかが正式に認められるいい機会だと。私という人間の品定めをしてもらうまたとない機会だと思っていた。でもまさか、こんな狭い空間で二人で話すとは思っていなかった。当然ながら。


「言いたいことは確かにある。ちなみにだけど、アンナちゃんから見てあたしってどんな印象なんだい?」

「……どんな印象と言われましても、この初対面から五分も経っていない状況では……」

「いいんだよ、気なんて遣わないで。シユウはあたしの話なんてしないだろうけど、まあ概ね、あたしはあんたらの関係に反対してる、みたいな印象を持ってたんじゃないかい?」

「……正直に申し上げるのであれば、確かにそのような印象は持っていました。シユウ様がサロメ様のお話をしないのは、受け入れられていないという不都合な話を私に隠そうとしているためではないかと」

「いやいや、むしろ逆さ。あたしは最初からあんたら二人の結婚に賛成だった。だからこそ、あんまりあたしの話をするなってシユウに釘を差していたのさ。誰か一人からでも認められていると、人はそこから先に進むことを怠ってしまうからねえ」

「賛成、ですか? 実際にお話をしたこともない、顔を見たわけでもない、こんな三流国の半没落貴族風情がとは、思わなかったのですか?」

「シユウから聞いてた通り自虐が凄いねえ。そこまで自分を卑下しなくてもいいだろうに。家が没落するのは子の責任じゃなく、百パー親の責任だし、その尻拭いを子供を結婚させることで果たそうなんて恥の上塗りもいいところだよ。そういう意味では確かに、フォーマットハーフ家は半没落状態なのかもしれないけどね」

「……そこまできちんと貴族を批判する王族というのも、なかなか珍しいですわね」

「いやいや、王族なんてこんなもんさ。酔っ払いでもしたら自分の国の悪口ばっかりで、褒め言葉なんかろくに出て来やしない。酒を飲むとその人の本当の姿が現れるなんて言うけど、あれは結構真理なんだよ」


 車内の温度は冷房が効いているので涼しいけれど、窓から入ってくる日光はかなり私の肌を温めている。七か国で一年間の平均気温が一番高い国なだけはあるわね。冬の海に入りたいならばロデウロに行けなんて言われるけれど、常夏ではないのだから無理があるような気もする。


 サロメ様の運転する車はとても安全運転で道路を進む。まあそれはこの車に限った話ではなく、周り全ての車に言えることではあるのだけれど。血の気の多い国には見えないほど、全ての車が穏やかに走行している。バイクすらもが、車を追い抜いたりせずに安全を重視している。


 私は、道路というのはその国がどういう国なのかを表すと思っている。無法地帯に等しいような場所ならば安全運転をする車なんてないだろうし、平和な国ならば法定速度を超えた車も滅多にいないだろう。運転できない年齢なので勝手に思っているだけだけれど。


 この国の車は派手だ。ステッカーが貼ってあったり、赤やら黄色やらの車体が多いし、オープンカーも比率として多い。そういった車全てが安全運転を極めているというのはある種異様に映るけれど、私はそれを素晴らしいと思う。個性を潰さずに、全員が同じものを守っている。


「あたしはあんたに感謝してるんだよ。そういや、あんたとアンナって語感が似てるね」

「……感謝、とは? 私はロデウロの為に何かを行ったという記憶はないのですが……」

「ロデウロ関連じゃないよ。シユウのことさ。シユウが今みたいに育ってくれたのは、あんたのお陰だ」

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